調布の“場”レポート④ へきちの本棚/調布スペース
調布駅から徒歩11分ほど、たづくりからも近い、小さなアトリエで月1回程度開催されている「へきちの本棚」。
「へきち」の2人のおすすめ本をとりあえず手に取ってめくってみるもよし、逆に自分のおすすめ本を紹介するもよし…そんな「へきちの本棚」に参加してきました。今回のテーマは「ヤバい本」です。
田渕正敏さん、松田洋和さんにお話を聞きました
へきちの本棚/調布スペースってどんな場所?
田渕:
松田がグラフィックデザイナー、 僕がイラストレーターとしてそれぞれフリーで活動しているのですが、一緒に仕事をするときは、「へきち」という名前で活動しています。今年で14年目になりますね。
この場所は、普段は非公開でアトリエとして使用していますが、月に1回程度「へきちの本棚」という予約制のイベントを開催して、僕たちのおすすめの本を自由に見てもらえる場にしています。
松田:
毎回異なるテーマにあわせて2人で本を3~6冊ずつ選び、レコメンド文を書いて本と一緒に並べています。
書評に付いているQRコードは、その本を買えるリンク、例えば出版社やオンラインショップに飛びます。
田渕:
どういうイベントかと言われたら、掴みどころは結構難しいかもね。どんな本があるかはその時々で違うし。
「いい装画」「食べ物の本」「処方箋になる本」…小説があったり、見た目だけで選んだ回もあったりと、色々です。
松田:
12回目の今回のテーマは「ヤバい本」で、お互い「ヤバい」と感じた本を選んでいます。僕はアートブックを中心に選びました。
僕らはアートブックフェアに出たり、自分たちも買ったりして慣れ親しんでいるんですが、他の本と違って、アートブックってまずどういう風に見ていいか分からない方が結構いるっていうことにこのイベントを始めてから気が付いたんです。
それで今回はアートブックの中でも見た目で面白さが伝わりやすいものを多めに選びました。
特にこれ、見てください!(机に乗り切らない巨大な本が出てくる)
これは、一応科学ジャーナルとして出てるものなんですけど… そういうのはもう全部すっ飛ばして、でかくて綺麗で面白い!
これをいろんな人に見せたかったんですよ。
そこに哲学があるのはわかるんだけど、そういうのすっ飛ばしていいって思うかどうか、みたいな視点で選びました。
田渕:
松田が選ぶ基準のひとつに「これも本って言っていいのか」を挙げていて。
確かにアートブックに触れる入り口の1つとしてその視点はあるかもと思いました。
松田:
ある枠の外に出ようとしているものってどうしても魅力があって。そういうのを一言で言うと「やばい」。
タブさん(=田渕さん)もですね。「この漫画ありなの」とか。「変な造本」っていうところでハマったんでしょ。
田渕:
そうそう、僕がはじめに変だなと思ったのは吉田戦車の漫画『伝染るんです。』ですよね。
僕は小学校の時、ギャグ漫画、しかも不条理系のギャグマンガばかり読んでいたんですけど。
『伝染るんです。』は漫画目当てで買っていたけど、「本を作ってる人もおかしいな」って思ったきっかけですね。
カバーの裏面に漫画の続きが印刷されちゃってたり、マージン(余白)が明らかに意図的にズレてるとか。
このブックデザインを担当した祖父江慎さんはデザインの世界ではとても有名な人ですが、本を作っている人が漫画家とは別にいるっていうことを意識し始めるというか、そういう視点の楽しみが出てきたんです。
それまではそんなこと考えなかったんですよ。特にジャンプコミックスとかはデザイナーの名前が入ってないから、漫画家が1人で作っているような感覚だったんですけど、「いや、これ本を作ってる人が別にいるんだ。そしたらこの人もおかしいな」みたいな感じで。
松田:
「ヤバい本」って、子供の時にこういうのに出会ってしまった結果今があるっていう意味も含んでいて。
田渕:
人生決定づけられちゃうみたいな危なさもちょっとあるよね。
松田:
タブさんは『伝染るんです。』だし、僕はデザイナーズ・リパブリックなんです。
デザイナーズ・リパブリックはCDのジャケットデザインを多く手掛けているスタジオなんですけど、僕は高校生の時に出会って、こういうのがやりたくてデザイナーになったんです。「かっこよければそれでいいじゃないか」みたいな。そのあと美大に入って知らないことだらけで焦りましたけど(笑)
田渕:
「へきちの本棚」のために昔読んだ本をもう1回読み返すのも面白いよね。
このほかにも「へきち」の本をはじめ、いろんな本を引っ張り出して見られるようにしています。
松田:
それと、1回来てくださった方には「今度はおすすめの本を持って遊びに来てください」って言ってるんです。僕らもお勧めされるの大好きなので。
ぜひ皆さんも持ってきてくださいね。「これ読みました?」みたいな。
この場所を開くきっかけ
田渕:
「へきちの本棚」のはじまりは、雑誌の資料的価値について考えていた時に、雑誌って読み返されることが多くないしあまり残らないから、気になった号だけでも持っている人で集まって、 深読みする会を開いたところからですね。
松田:
僕らは元々同じ会社にグラフィックデザイナーとして勤めていたんですが、そこで趣味の話とか、どんなデザイナーが好きだ、イラストレーターが好きだっていう話をしているうちに仲良くなったんです。
会社帰りに本屋に行って本を見ながら、「このブックデザイナー知ってます?」とか、「この本好きだったらこれも好きじゃない?」とかお互いに話したりして。学生みたいな感じですよね。
そういうのも「へきちの本棚」に繋がってますね。
田渕:
「へきち」自体が最初は今よりもっともっとプライベートな活動だったので、そこから外に開いていったっていうのは自然なことかもしれないです。
松田:
これでも開いてる方なんです(笑)
どんな人が来る?これから利用してほしい人は?
田渕:
「へきちの本棚」が予約制かつInstagram以外では告知もしていないので、初めての方は参加を戸惑うのかなと思います。
表に出している貼り紙を見ても本屋ではなさそうな謎のスペースだし、入ってもいいものか…みたいな。
ちょっと好みは偏っているけど、閉じた場所ではなく、今回ならとにかくアートブックに触れてみませんかという感じで、まずは適当にめくってみてほしいです。それぐらい本を手に取ることへのハードルが下がるといいなと思う。
読書っていいですよねっていう会でもないから、本をあまり読まない、読めてない人にも来てほしいです。
「こんな楽しみ方もあるの」ぐらいの感じで、なんとなく来てもらえれば。
スペースの入りにくさのせいもあるのか、もっと話しづらいと思ってたって言う方もいるんですが、むしろこんな話聞いてくれるならいくらでもするので(笑)
松田:
2人とも真面目だとは思うんですけど、全然ふざけた人間なので。破れかぶれでやってます(笑)
田渕:
相当ふざけてますね。ふざけてないとできない活動だしね。
これからどんなことがしてみたい?
松田:
前回の「へきちの本棚11」ではお子さんも参加できる製本ワークショップをするなど、手を動かす要素も取り入れていて、今後もやっていきたいです。
田渕:
「へきちの本棚10」は別の書店さんで出張版を開催して、きっかけがあればもっと外に出ていけるということに最近気が付きました。
基本的には今のかたちで活動して、お声がかかれば何かと対応していこうかなと思っています。
それと、松田の製本道具展みたいなものもやってみたいですね。
製本道具って珍しいものが結構あって、売られてないものも手作りして使ってたりするから、そういう道具を少し使ってみるだけでも結構面白いんじゃないかなって。
これから参加できるイベント
田渕:
10月19(土)~20日(日)に開催される「TAMATAMA FESTIVAL 2024」内の企画「MUSEUM for NEWTOWN」に参加します。
持ってきてもらったノートに僕がライブドローイングをしたり、好きな紙を持ってくると、それを松田がノートに製本したりするワークショップを行う予定です。
多摩地域のクリエイターやカルチャーが集まる文化祭のようなイベントで、とても楽しいと思います。
それと、松田がデザインしている『音信』というZINE(冊子)に関するグループ展が12月下旬まで小平市の照恩寺というお寺で開かれています。(詳細はこちら)
松田によるかなり攻めた製本のZINEも見られるので、こちらも良かったら足を運んでほしいです。
松田:
調布スペースでの「へきちの本棚」も、これからも定期的に開催していくので、ぜひ情報をチェックして遊びに来てくださいね。
調布のおすすめスポット
田渕:
調布市立中央図書館は蔵書が豊富でいいですよね。「写真の本」がテーマのときは図書館で借りた本を何冊も紹介していました。
松田:
本屋さんにもぜひ行ってほしいです。書店で本と出会うのって、ネット通販でおすすめされるのとはまた違う感覚で良いなあと思う一方、最近は書店がどんどん少なくなっていて、本を普通に書店で買えることはもう当たり前じゃないんだなって日々感じています。
おすすめスポットとはまた違いますが、つつじヶ丘には月曜社という出版社があって、美術関連の本も多く出版していますよ。
オープン情報・アクセス
オープン日時:「へきちの本棚」開催時間に準ずる
住所:〒182-0034 東京都調布市下石原3-59-11サン・レルム102