第13回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(3) 劇作家賞/演出家賞 前田斜めさん(劇団野らぼう 作・演出)
前田斜め(以下「前田」) 全然思ってなかったですね。他の団体がバラエティに富んでいて、自分たちは自分たちのポジショニングもある。その中で純粋に良い作品だと思う作品もあったので、そういう団体が(賞を)獲るんだと思っていた。良い作品を観られること自体が良い経験だと思って観ていて。そんなことを話しながら車で帰ろうと思っていました。
前田 今回は、ロレンス神父が二日間仮死状態になれる薬をジュリエットへ渡すことにフォーカスしました。その展開にすごく違和感をもっていて。薬を渡していいのか、なんで急に魔法が出てくるんだと。ロレンスという人は、ドラマチックな展開にしたければそういう薬を使ってもいいと思ってしまう人物なのではというところから構想しました。ジュリエットが自殺して、ロミオも自殺して、ジュリエットが生き返って、ロレンス神父はそれを近くで目撃していて。そのロレンス神父という人物は情熱的だなって。
僕は技術の進歩に興味があるんですけど、例えばAIが全世界で使えるようになって、僕らも使える中で、果たして使っていいのかという問いがあるじゃないですか。僕は使っていい派なんですけど、使っていくうちに身体性を失うじゃないですか。自分で考えることを失うじゃないですか。それ自体は悲しいなと思っていて、内容と引っかけてあります。ロレンスは基本的に発明したものは使っていく。使っていくことに対してそれを我慢することはしない、情熱を大事にする人なんだなと。
前田 そうですね、自分みたいだったりするし、ある意味人間みたいな感じか。みんな色々なバランスはあるけど結局、社会ってそういう風に進んでいくじゃないですか。AIがダメだって言う人も、十年後は普通に使う社会になっていると思うんです。
前田 どっちがいいとか悪いとかではないんですが、学生時代ipadが出たときにドキュメンタリーを撮って、それを都会に住んでいる大阪のじいちゃんと田舎に住んでいる鹿児島のじいちゃんに見せにいったんです。都会と田舎ですごく差がありました。鹿児島のじいちゃんの方はテクノロジーの進歩で生活が豊かになって、洗濯にしろ掃除にしろ楽になって、進歩はいいことだと言っていました。一方で大阪のじいちゃんは、テクノロジーの進歩で人間は滅びるって言っていたんですよね。だけどパソコン使ってるんですよ。なんか不思議だなと思って。そういうことに興味をもって物事を見ています。でも最近ですね、肯定できるようになったのは。
前田 面白くなくなると思っていました。例えばセルフレジもそうですけど、普通に会計して10円まけてもらうみたいな方が面白いじゃないですか。まけてもらわなくても、そこでコミュニケーションがある方が。だからレジが人間じゃなくなった時もアンチだったんですけど、最近は僕らより下の世代がいろんなしがらみから解放される気がしています。
前田 最近、学校教育が面白いなと思っていて。知識重視じゃなくなって、知識の価値が下がっているように感じます。頭がいい人とか悪い人とかというよりも、もっと創造性や共同していく力の方が重要というか。動物的になるというか。テクノロジーが発達したことによって既に圧倒的な力やスピードがあるので、知識の面で人間が追いつけなくなった瞬間に、ものすごく解放されるんじゃないかと思います。
手触りを大事にしたいと思っていたんですけど 、時代を巻き戻すのはもう無理だということも分かっていたので、そのまま社会に乗っかっていきました。そうしたら一昨年ぐらいに「あ、なんか今の時代面白いかも」と思って。僕らが中学とか高校の時はこうしなきゃいけないみたいという閉塞感が多かったんだけど、30代くらいになると結構世の中変わっていて、こうしなきゃいけないと言っていた人も意見が変わっていて。社会とか、正解が意外と分からなくなっているというか、価値観が変わってきていると思うんですよね。
前田 リアリティです。いろんな演劇でアプローチされていると思うんですけど、リアルでというよりは「リアルな感じがした」ということです。「演じる」行為って不思議だな、人間特有だな、なんでこんなことするんだろう、と常々考えているんですが『わざわざやる』『わざわざ野外でやる』のを一生懸命やることが大事なのかもしれません。それがややもすればダサく映る場合もありますが、なんでわざわざこんなことをしているのだという、そのわざわざ感がひっくり返ってグッとくればいいですね。
前田 それは大事だと思っています。僕は稽古場兼住居みたいなところに住んでいて、生活と(演劇創作が)近いんです。そういうことも、松本でやるというのも、プラス劇団員と基本いっしょにやるというのも大事。最近は客演で入ってもらうことも 増えているんですけど、やっぱりコアメンバーには結構こだわっています。固めつつ、そこからどう紐解いていくかだと思っています。
前田 風などの環境と空間を意識しながらやってほしいとは言っています。同じシーンをやっていたとしても天気などは毎回違うので、そこにあるものと一緒にやろうと。一個一個捨ててなんとなくやり過ごしているともったいないので。今回の公演も、一回一回を貴重だと思ってやりましょうと言いました。それで変わってくるんですよね。 人って、その時の状態によって変わるじゃないですか。余裕があればそのままでいい気がするし、それじゃダメだって思う時もあるし。だからそれぞれがそれぞれの目線でやってくださいというのが最低限の共通の認識でした。環境に合わせて芝居を変えてくださいとかは言わなかった
です。(公園にある木を指さして)例えばあそこの木の後ろから役者がヒュッて出てきたら目立つし、「お、なんか出た」って思うじゃないですか。それが僕は 面白いと思っていて。自分がそこに出てきた瞬間とか、いる瞬間が貴重ですごいことだと思ってやってくださいと言っていましたね。
前田 野外って劇場空間と違って、360度あるじゃないですか。ということは基本的に点から作りたいんですよね。その点から置いてそこから広げていきたい。その象徴というか、真ん中の点です。
前田 僕らのやっている芝居の演技自体は、斬新なものではないという自覚があるので、それに対してはどうしたもんかなというのがあります。大きく変える必要はないけれど、どういう風に捉えていったらいいかと。ひと世代前の演技を踏襲しつつ新しいものを生み出したいとやっていますが、かといってそれが今新しくなっているとは思っていなくて。
前田 悩みというよりは、創作する上での課題というか、面白い部分でもあります。でもちゃんと答えを出さなきゃまずいなとも思っています。
(劇団野らぼうは)同世代の劇団がやっていない作品スタイルではあると思うので、そういう意味ではフィールドは開けていると感じるんですけど、みんなやったらいいのになとも思います。奇抜な衣装や濃いメイクってやっている方も単純に興奮するし気分が上がるし、結構楽しかったりします。芝居の云々というよりも。
僕は基本的に、演劇以外の人に芝居を見せたいと思っています。演劇を観る余裕もないという人はいっぱいいますし、演劇を観るよりも幸せになる方法はいくらでもある。まずは自分たちが多幸感を獲得しなければ、多幸感を獲得しながら演劇しなければと思います。
前田 そうですね。続けていくため、集客的に、あと単純に演劇の価値のためにも。
僕は音楽界隈の人が周りに多いのですが、違うんすですよね、価値観が。どこで楽しいと思うかとか。演劇は悩んだり立ち止まったりしながら楽しいところを目指す感じがあるけど、音楽をやっている人にそういうものを観に来てもらうにはどうしたらいいか、という問いがあります。
前田 そうですね。元々、稽古場も何も無くて、音楽スタジオがある倉庫に住んでいました。一人で仲間もいない状態から始まったので、住む場所からの影響もあると思います。
前田 うーん、強いて言うなら、小学生のころ一人で留守番している時に、嫌いな食べ物を食レポしながら食べていたんですよ。で、食レポしながら食べると美味いということに気づいたことがあって。
前田 アスパラガスとカリフラワー。食レポしながらだと食べられることに気づいて、それ以来やっています。なんでも食べられるようになりました。
前田 あったかもしれないですね。
インタビュー・文 山下 由(第13回演劇コンクール運営チーム)
インタビュー場所 長野県松本市あがたの森