劇団野らぼう
前田斜めさん(作・演出)、成田明加さん(俳優)、くずおか由衣さん(俳優)、深沢豊さん(俳優)、キムジーさん(照明)、水野安実さん(スタッフ)
第13回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(1) グランプリ 劇団野らぼう
深沢豊(以下「深沢」) 僕、正直コンクールだと意識したのが講評の時ぐらいで。それまでは、上演に色々な制限があるという体験を、ある種の競技のように面白がっていました。実は僕はどちらかというとコンクール的なところからなるべく距離を置きたい人間で。演劇はそもそも 比較できるのかと。ただ、それを実際やってみると面白いなと思いました。演劇にはこういう楽しみ方もあるんだなと知りました。
水野安実(以下「水野」) 私は東京には行けなかったので配信で観ました。臨場感ありましたよ。
くずおか由衣(以下「くずおか」) コンクールだから勝たなきゃみたいな緊張感はなかったんですけど、元々六〇分くらいだった作品を四〇分に短縮したので、またこの物語に向き合える機会があってよかったと思っています。あと、表彰式が終わってせんがわ劇場の舞台スタッフさんを紹介する時に「え、この人たち全員、普段は演劇をやる側なんだ」と驚きました。
だから視線とかが割と受け入れてくれているような感じというか、優しかったんだなと思って。この取り組みも面白いですよね。そうやって、劇場にアーティストが関わっているという劇場は他にあるんですか。
くずおか 面白いですね。
成田明加(以下「成田」) 劇場に、いろんな人たちが 同じ立場で関わっているというのはすごくいいなと思います。いろんなことをやっている人たちが一つの劇場へ集まって、コンクール自体が平等なことが面白かったです。
仕込みやバラシ、上演の制限などが大変で。仕込みの稽古ばかりするのも面白かったです。結果としてすごく役に立って、コンクール後に西会津で上演したときはそれが自信になりました。どうせ私たち三〇分で仕込めるし、一五分でバラせるからって。
キムジー 俺は、制限が沢山あるし、色々と周りからチェックされることが「あー嫌だな、やっぱり」という思いは最初あったけど、でも最終的には、みんないい人だな、 わかってくれる人がいっぱいいたなと思ったね。
―ありがとうございます。前田さんはどうでしたか?
前田斜め(以下「前田」) 僕はテント芝居から入っているので、劇場にそんなに慣れていないんですよね。今回は劇場を自分の場所だと感じられたように思います。三日間劇場にいて、だんだん馴染んでくるじゃないですか。それが大きかったです。すごい収穫でした。
前田 他の出場団体を鑑賞して、作品の切り口がみんな違うと感じました。「今の私たち」というのをちゃんと切り取っているから。どれも有意義な上演だった。私たちは私たちでできることをやっただけで、グランプリは取らないだろうと思っていました。
成田 私はどうなるんだろうって思っていました。みんなはどうだったんだろう。
深沢 僕は講評の時に自分の心が傷つかないようにしていました(笑)
キムジー (コンクール出場5団体のうち、野らぼうの演劇は)色がちょっと違うからね。
成田 素直に「ありがたいな」という気持ちはあります。ダメだと言われるより、良かったよと言われた方が、やっていたことが届いたんだなと思えました。
前田 講評前も、これから車で帰る時、別に賞をとれなかったとしても普通に楽しく(長野県へ)帰れそうだなと考えていました。
前田 言葉を失っていたというか。こうなるとは思ってなかったなと。
成田 あみちゃん(水野)に電話したかな。泣いてた。「帰ってくるまでがコンクールだからね」って部活の顧問みたいなこと言ってた(笑)。移動やコンクール自体が長かったのでみんな疲れていて、車内の空気感は少しふわっとした感じでした。
一人になる時間があまりなかったから「やっと終わった、お家に帰れる」と。あと、どうしよう来年のこと全然考えてなかったよ、というのもあったよね。
前田 そっちも大きかったね。
成田
私に関して言えば天使(役)である前に、人形を使うことを相当意識していました。どうしたら人形が生きているように動くのだろうということばかり考えて、操りながら探っていました。写真や映像を見て、あ、見ているつもりでもロミオとジュリエットの目が合っていなかったな、と後から反省する。 そういうことの方が多かったかもしれません。人形劇であるということをとても意識していました。
深沢 最初にチラシの撮影をして、それを見て今回の役の方向性を合わせるというか。僕はあまり自分の役について考えのある器用な人間でもないので、前田さんの作り出す物語にどうやってうまく自分が人として、キャラクターとして加わっていくかということを考えますね。結局自分の中のものしか出せないから、それを面白がってくれる前田さんに合わせてうまくやることを考えていました。また別の作品をやるんだったら、全然違うキャラクターになるかもしれません。
くずおか 野らぼうさんって前田さんの脚本の力が強いというか、言葉が強いしイメージも強い。なのでそのキャラクターへの入り込みかたには気をつけるんですけど、その手がかりに劇団をずっとやっている方の身体の感じとか、あーこういうリズムで喋るんだというのを結構参考にしています。
私が参加するとき、一番気を付けているのは稽古以外の些細なことです。C君(前田さんのお子さん)がそこにいたりだとか、 一緒にご飯を食べたりだとか、そういうことをすごく大切にしたいなと思っています。
成田 私たちはせんがわ劇場まで電車で30分というような距離にはないので、ちょっと頑張らないと関われないと思うんですよね。だからその時その時で興味があるものに関われたらと思います。最近、演劇教育に興味があって。長野県も今、表現を教育に取り入れるためにファシリテーターと現場を繋げることをしています。そこに時々行ってみると、今の学校現場における演劇の必要性について、役所の人たちが熱く意見を交わしていたりして。そういう取り組みと、せんがわ劇場がやっている取り組みとを比較して見てみたい気持ちもあります。それから劇場のクリスマス公演をやらせてもらえるんだったら、例えば仙川駅の前で公演出来たら面白そうです。
ここで前田さんのお子さんC君が「おやすみ」を言いに来たのでみんなで記念写真を撮りました。
写真を撮り終えてみんなでおやすみーとC君を見送りインタビューに戻る。
成田 いろんな人の助けを得て、劇団でテントが建てられそうだけどその中身(上演作品)がないという状態です。テント芝居をやると約束している人たちの土地に行く予定で。約束を果たしたいという気持ちがありますね。
キムジー 野らぼうで調布市をテントでジャックしたら。
前田 まずはテント。ずっとテントでやりたかったので、目標はテントです。
深沢 テントの色は決めてるんですか。
前田 白です。白というか、くすんだ白。実は物はもうあって、あとは時間と人とタイミングですね。テントでやる作品の課題もあるんですが、でも、もう時は来たという感じです。
くずおか ちょっと無粋かもしれないですけど、テントの先には何があるんですか。
前田 テントの先にはテントしかないですね。
くずおか 名言みたい(笑)
前田 七月二十一日にほしぷろの星君(前年ファイナリスト)と、あがたの森(野らぼうの活動拠点)で公演をします。
成田 ここから、ひたすら考えます!
インタビュー・文 山下 由(第13回演劇コンクール運営チーム)