調布国際音楽祭2022 公演紹介
音楽物書きの加藤浩子さん執筆の音楽祭2022記者会見に関する記事です。
ワクワクが止まらない。
2月10日に発表された「調布国際音楽祭2022」のラインナップを見て、そう感じるのは筆者だけだろうか。 2013年に「調布音楽祭」のタイトルでスタートした「調布国際音楽祭」。10回目の今年は、「“BACH”TO THE FUTURE~未来へつなぐ音楽祭~」がテーマ。「音楽祭の中心となる作曲家バッハと、若い人たちと一緒に音楽を未来へ繋いでいくことを願った」(エグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人。以下S)テーマだという。10年間続いてきた企画もあれば、今回初の企画も盛りだくさんだ。ジャンルの枠を破るコンサートから新作の誕生、そしてコアなバッハものまで、内容が多彩で幅広く、ハッとさせられる驚きに満ちている。「レガシーを積み重ねながら、新しい試みも取り入れている音楽祭」(アソシエイト・プロデューサーの森下唯の言葉。以下M)との自負は、もっともなのだ。
登場するアーティストも素晴らしい。若手からベテランまで幅広いが、皆表舞台で「旬」のオーラを放っている人たちばかりである。
多彩で充実した内容と豪華なメンバー。それを可能にしているのは、今最も注目されている音楽家のひとりでもある音楽祭エグゼクティブ・プロデューサーの鈴木優人が「目利き」であることの証明だ。「彼はとびきりの『キュレーター』なんです」(M)。鈴木には、「今」を捉える感度と、「人を見る目」、そして「アーティストを見る目」がある。鈴木が声をかけると、アーティストたちが「仕事という意識ではなく、本当にやりたいこととして来てくれる」(S)という。それはおそらく鈴木のリクエストが、アーティストがやりたいこと、やってみたいことと合致しているからではないだろうか。だからみんなが巻き込まれていくのだろう。彼とアーティストたちとの関係が「『オーガニック』だと言われたことがある」(S)そうだが、うまい言い方だと思う。それは音楽祭の「手作り感」とも共通している。
鈴木のプロデュースのもう一つの鍵は「自由さ」だ。「毎回、その年ごとにゼロスクラッチする。その即興性を大事にしたい」(S)。そんな「自由さ」の空気は、「好きなことしかやらないと決めている」という森下にも共通する。だから毎回、新鮮な驚きがあるのではないだろうか。
前述の通り、調布国際音楽祭は今年で10年目を迎える。もともと地元のフェスティバルめいたものはあったのだが、2010年に調布市文化・コミュニティ振興財団がバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)と協定を結んでフェスティバルをリニューアルし、鈴木優人がエグゼクティブ・プロデューサーに就任したことから全てが始まった。「クラシック音楽を中心にしたフェスティバルでも町が盛り上がる」(S)ことを念頭にしているが、今やジャンルの壁も超え、「フェスティバル・オーケストラ」を中心に海外の演奏家も参加して、スケールも国際的に。コロナウイルス感染症の影響が残る今年は、海外在住の日本人アーティストを除いて外国人演奏家の予定はないが、充実したメンバーとプログラムは十二分に世界クラスだ。
一方で、地元の桐朋学園大学と協定を交わし、ボランティアも多く、地域にも溶け込んでいる。子供向けのコンサートもあるが、「年齢で限定するつもりはありません。6歳児が『0歳のためのコンサート』に来てもいいと思うのです。僕や森下君もこの10年で子供を持つようになり、子供たちに何を与えたらいいか考えるようになった。やはり本物を与えたい。それが地元にあったら嬉しいなと」(S)
子供を対象にした催しからは、プロになるケースも出てきている。桐朋学園大学の打楽器科に属する学生が子供たちに手ほどきする名物イベント「たたいてあそぼう」の第1回には、最近、読売日本交響楽団のメンバーになった金子泰士氏が演奏者として参加していたという。「続けてきたことの意義を感じて、嬉しかったですね」(S)。
今回のラインナップは本当に多彩で、幅が広い。共通するのは「有名どころを押さえながら、ひとひねり効かせる」ことだろうか。オープニングコンサートは、世界中で人気のyoutuberピアニスト、「かてぃん」こと角野隼斗と、森下が共演し、鈴木が指揮する「ラプソディ・イン・ブルー」がメイン。地元の明治大学附属明治高等学校と中学校のブラスバンドも加わり、「明るく楽しいオープニングになる」(M)のは必定だ。
一方、ファイナルコンサートは、B C Jによる「バッハ名曲選」。「名曲選」と言ってもただ有名曲を並べるのではなく、カンタータの中の器楽曲を再構成した「オルガン協奏曲」なども登場するのが、この音楽祭ならではなのである。
今回初めての試みとなる作曲のワークショップ「新しい音楽をつくる」も注目だ。参加者が書いたスケッチを作曲家が採点し、その場で音にするというもの。金子仁美、細川俊夫、藤倉大と第一線で活躍する顔ぶれが、競い合うのではなく、作品評の場で意見を出し合う。想像するだにスリリングだ。選ばれた作品は、室内楽の名手を集めた「フェスティバル・ガラ「名手たちの室内楽」〜ブラームス:ホルン・トリオと管楽器のための名曲たち〜」で世界初演される。新作が誕生し、世に羽ばたくプロセスを目撃できるというわけだ。
ピアノリサイタルには、ショパンコンクール第4位で話題を呼んだ小林愛実が登場。小林にとって「音楽の学びの原点の一つである調布」(S)での凱旋公演だ。コンクールで絶賛されたショパン《24の前奏曲》をメインに、調布国際音楽祭のテーマ作曲家であるバッハ、そして小林が目下情熱を注いでいるシューベルトという贅沢なプログラムだ。
音楽祭名物の深大寺コンサートで、鈴木雅明と岡本誠司がバッハの名曲を聴かせてくれるのも嬉しい。
オーケストラコンサートでは、恒例の鈴木雅明指揮のフェスティバル・オーケストラに加えて、調布に久しぶりの登場となるNHK交響楽団が、鈴木優人の指揮でいずれも正統派の名曲を披露する。ソリストも、前者には名ピアニストの河村尚子、後者には注目の若手ヴァイオリニスト郷古廉。
本当に、全て聴き逃せないラインナップなのである。
「音楽祭のプロデューサーという仕事の魅力は、壮大な『ドミノ倒し』に似ています。一生懸命準備して、いざ音楽祭が始まると、作り上げたドミノがどんどん倒れていく。それがすごく楽しい」(S)
最先端のアーティストたちが繰り広げる「壮大なドミノ倒し」。それこそ「調布国際音楽祭」の醍醐味だ。
想像するだけでワクワクしてくるのは、筆者だけだろうか。
調布国際音楽祭2022WEBサイト
https://www.chofumusicfestival.com/