※掲載の文章は、第13回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。
演劇ユニットせのび『リバー』講評


【瀬戸山美咲】
まず、せんがわ劇場の使い方が面白いし、上手だなと思いました。今回、開演と終演時に幕を開ける閉めるという制約が各団体あったと思うんですが、それをうまく使っていて、途中までしか開けないところから始めて、開いたら白いビニールシートのような幕があるとか、ちょっと人を食った感じも面白かったし、ビジュアル的にとても美しかったです。白いシートとブルーの照明とカニのお二人のちょっとオレンジ色っぽい衣装など、色合いをすごく計算してすべてのシーンを作ってらっしゃるんだと感じました。
あと演出的には、役の切り替えや場所の切り替えがとても鮮やかでした。ちょっとした一言だったりするんですが、ちゃんと役者さん主導で動いてる感じがして、明かりで説明とかではなくて、ある一言を発して変わる、みたいなことがとてもうまいなと思いました。
あとは、幕やゴム紐が何重にもいろんなものに見えてくる見立てがうまい。特にゴム紐が、人と人の境界線だったりアクリル板だったり水位だったりと、いろんな見え方をしてくるのがとても面白かったです。
内容に関してはいろいろな要素があるので‥‥でも一番、観ているときにいろんなことを考えました。今目の前で起きていることだけじゃなくて、自分自身の記憶だったり、いろんなことを想像させてくれる芝居でした。
あとは、あの陸前高田の話のモノローグがとても良かったと思います。お客さんに向かってきちんと届いてきたし、本当に俳優さんは大変だったと思うんですけれど、演劇の、セリフを言うことの力を改めて感じた場面でした。ありがとうございました。
【永滝陽子】
せのびさん、お疲れさまでした。コンクールの申請書類のなかで、岩手で活動なさっているので岩手にお客さんを呼ぶため、チャレンジという意味も込めて今回応募されたことを知りました。
作品を拝見したとき、その作品の中で、岩手と東京、もしかしたらもう一つくらい地域が入っていたかもしれませんが、ちゃんとそのあたりをうまく描いていらして、同時にコミュニケーションというテーマがこの作品にはあるのかなと思いました。自分と他人、場所と場所、思考と思考、思い出と思い出、そういう自分の頭の中のことや、自分と他人の間で生まれることを、コミュニケーションとして理解しあおうみたいなことが、すごく前向きに肯定的に書かれているように感じて、そこにせのびさんの活動の背景や思いの一貫性を感じました。
また、観客を置いていかないような工夫もすごく感じられました。舞台上の、白い幕とかゴム紐とか、使うのはシンプルな道具ですが、そのぶん観る側に想像力を委ねてくれるような、丁寧で真摯な演出に、とても好感を持ちました。これからも頑張っていただきたいです。
【徳永京子】
とても面白かったというか、観ている間に深読みの引き出しが次々と開けられて、頭の中で物語がどんどん膨らんでいく幸せな体験をしました。
オープニングの緩やかで自然な集中のさせ方から、ミニマムな小道具の見立てで、いくつもの場所と時間を広げていき、そこにいる人といない人、あるものとないものを、舞台上に次々と出現させていくせのびさんの術中に、私はまんまとはまりました。
つまり、同じセリフが時間を置いて繰り返されると、二度目、三度目は最初と違う意味をもって響いてくるんですよね。例えば、タクシーに乗った女の人が「劇場に行ってください、友達が出るんです」と言うシーンがラスト近くにあって、普通に考えるとその劇場で友達がお芝居に出るという意味ですけど、そこまでストーリーで、ここはどうやら何かの被災地らしいことが何となくわかっていて、すると2回目の「友達が出るんですよ」は、震災で亡くなった友達の幽霊が「出る」という可能性を帯びて聞こえて、最初とはまったく違う響き方をする。東日本大震災直後、タクシーでの幽霊の目撃談が激増した話は広く知られましたから。そういったことがいくつもあり、惹き付けられました。
話題になっている蟹色の衣裳、中心がオレンジの方と両側がオレンジの方がいて、私は、さっき言った「あるものとないもの」の対(つい)のような意味が衣装にも込められているのではないかと感じました。そんなふうに、戯曲だけでなく衣裳も美術も照明も、演劇が使える360度を駆使して観客のイメージが広がる工夫がなされた作品でした。
【井手茂太】
お疲れさまでした。皆さんもおっしゃったように、テーマがテーマですが、よくあそこまでよく膨らましたなと、またよくここまで劇場を遊んでいただいたなと思いました。
ただ、紙なのかビニールシートなのか、あれをもっと使ってもいいのになとか、ガシャガシャとクシャクシャする音を、川のせせらぎか何かとして、生のSE的に使う工夫をされてもいいのかなと(思いました)。
あとは、せっかく照明が後ろにあるので、白いところから人影とかシルエットで誰かと会話してるとか、そういう照明も使って遊んでいただければ(よかったかもしれません)。
もちろん床下(の演出)もとても素敵でした。(客席の)1列目は仮設ですかね、そこを外してもよかったんじゃないかと個人的には思いますけど、無理ですね。個人的にはもうちょっと見たかったので、そういうときは劇場さんにちゃんと頼んだらとか、ちょっと僕も勉強になりました。本当にいろいろ工夫なさっていて、とても良かったと思います。ありがとうございました。
【大石将弘】
いちばん物が少ない上演で、様々なものに見立てたりして、俳優の語りとお客さんのイメージの力ですごく遠く運んでもらえるような、とても良い演劇だったなと思いました。
冒頭の、お客さんを置いて行かないホスピタリティというか、一緒に行くよという優しい感じもとても素敵で、そこからぐっと劇世界というか、こっち側(舞台上)に連れて行ってくれる感じがとても良かったです。
モノローグを、俳優はどう発語しているんだろうなということは、俳優として気になりましたが、とても誠実に丁寧にきちんとイメージを持って語られていたように感じました。
あと、作品と演出への信頼をすごく感じました。おそらく、あえて平板にというか淡々と読むようにしているのかな。特にダイアローグは、僕だったらお客さんが退屈しちゃうかなと不安になって、テンポや質感を変えてみたり、もうちょっと砕けた感じにしたりしてしまいそうなんですが、そんなことしなくて大丈夫という信頼があってやれてるように感じました。
今日見たばかりで全然いい言葉が出てこなくてすみません。これからがとても楽しみです。ありがとうございました。
