調布の“場”レポート⑥ ねぶくろシネマ/合同会社パッチワークス
「ねぶくろシネマ」「調布交流会」「スナック部室」に「面白がる会」…
調布でほぼ毎年開催され、楽しみにしている市民も多い「ねぶくろシネマ」。
そんな「ねぶくろシネマ」をはじめ、町に住む人が気軽に交流できる場を多数仕掛ける合同会社パッチワークスを取材しました。

唐品知浩さん、古田裕さんにお話を聞きました
合同会社パッチワークスってどんな会社?
唐品:
合同会社パッチワークスは、現在、僕たちにあと2人を加えた4人で運営しています。
設立当初から現在まで全員がフリーランスでも仕事をしていて、ここco-ba CHOFUを通じて知り合ったことがきっかけで生まれた会社です。
例えば古田はデザイナーなので、ロゴやチラシのデザインを一手に担う「デザイン係長」、僕は不動産活用の仕事のやり方を応用して様々な課題を解決する「アイデア係長」というように、それぞれの本業を活かして仕事を分担しています。

僕たちは「ねぶくろシネマ」以外にも、各店舗が1品だけ出品するマルシェ「いっぴんいち」や、取り壊す建物に感謝を伝えるお別れ会「棟下式(むねおろしき)」など、様々なイベントを行ってきましたが、僕たちの仕事は何か課題があって、それに対してみんなでアイデアを出し合う過程で生まれたものばかりなんです。
このアイデアを出し合う場は「面白がる会」という名前で、元々は唐品が個人で始めたイベントなんですが、パッチワークス でも連携開催していて、調布でも様々なテーマや課題を面白がっています。役所や企業、市民などいろいろな人に自由に参加してもらって、お酒でも飲みながら旅行の計画を立てるように、街の課題に楽しくアイデアを出してみる。地域に関わるきっかけになればいいなと思っています。
古田:
みんなでアイデアを出して壁に貼りだすところまではできるけど、それを実現しようとした時に、誰がやるのかってなりますよね。お金の問題もある。
良いアイデアが出てきた時に実現できるような体制を整えるために、パッチワークスを会社として設立しました。
唐品:
「ねぶくろシネマ」もこうしたアイデアの出し合いから生まれた野外上映会で、2015年12月に多摩川河川敷で開催してから、以降はほぼ毎年開催しています。駅前の開発工事が落ち着いたらまたやりたいですね。
「ねぶくろシネマ」を開くきっかけ
古田:
きっかけは2015年に調布市の若手職員さんから、「映画のまち調布」(※)をもっと浸透させたくて、何かできないかとお話をいただいたことです。
その当時は映画館(=イオンシネマ シアタス調布)もないし、映画の撮影所があるだけで、市民は役所が言っている「映画のまち調布」を意識しづらかったんですよね。
※映画のまち調布…映画の撮影や制作に適した環境があったことから、調布市内には映画関連企業が多く集まり、現在は「映画のまち調布」としてブランディングするとともに、上映会やシネマフェスティバルなどを開催している
唐品:
「映画のまち調布」を定着させたいけど、浸透のさせ方に迷っているという感じだったんですね。
その当時、僕らは先ほど話した「調布を面白がる会」を、今インタビューをしているこの場所co-ba CHOFUで毎週のようにお題を変えて開催していたんです。
それで、悩んでるぐらいなら「映画のまち調布」を題材に市民と一緒にお酒でも飲みながらアイデア出してみましょうよ、とお誘いして「映画のまち調布編」を開催しました。
その中で、以前私が多摩川を渡る京王線の橋脚に映画を映したら面白いんじゃないかとSNSで投稿したことがあったのを参加者が思い出して、あれをやりたいと言ってくれたんです。そうしたら「それこそ映画のまちって感じがする」「やってみたい!」とみんなが賛同してくれて、すぐに実際にやってみようかということになりました。
そこから2~3週間後ぐらいには会議用プロジェクターと発電機を持って、河川敷で試写をしてみました。そうしたらなかなか良くて。

古田:
川の中に立っている橋脚に映したんだけど、すごく綺麗に映る上に、水面にも映るから、これはいいなと思って。
この感動はきっと伝わるだろうと思いました。
唐品:
で、本番をいつやろうかっていう話になるんですが、その時もうすでに10月で。そこから実際屋外で開催するとなると、普通は3月くらいだと思うんですよ。暖かいし。
でもすぐにやりたくって。いいことがあったらすぐSNSで呟きたいみたいな感覚ってあるじゃないですか(笑)
この感動を早くみんなに伝えたい思いもあって、最短でできる12月19日に第1回をやろうと決めました。
でも実際は冬の河川敷だから、とにかく寒いよねっていう話になって。
どうしようかと考えた時に、「キャンプ好きの家庭なら寝袋があるはずだから、冬場でも2時間ぐらいはなんとかなるんじゃない?」みたいな話から、最初は「リバーサイドシネマ」という名前だったのを、急遽「ねぶくろシネマ」に変えて、古田がロゴをデザインして始まりました。
当日は実際に冬用の寝袋を持ってきた人もいたし、持ってきてない人もいたけど、めちゃくちゃ寒かった。12月の河川敷を舐めちゃいけない(笑)
古田:
映画は『しあわせのパン』という北海道が舞台の作品を上映しました。
寒い多摩川よりもっと寒いところの話なのと(笑)、当時ちょうど映画に出てくるパンと同じレシピで焼けるパン屋さんが市内にあって。
そのパン屋さんにお願いして、映画に出てくるパンとスープを販売しました。それであったまってね、みたいな感じで。
それと、電車の橋脚に映しているので、当たり前ですけど真上を電車が通るんですよ。7分に1回くらいは全然声が聞こえなくなる。
でも、セリフが聞こえないときは字幕を出せば実際問題なく、みんな楽しんでましたね。
唐品:
参加者はふらっと立ち寄った人も含めると100人ぐらいでした。
最初の「面白がる会」から2か月の出来事でしたね。
どうやって「ねぶくろシネマ」を運営し続けている?
唐品:
資金面では、最初は市の「映画のまち調布」の推進に関する補助金制度を使って開催しました。
2回目以降はそれぞれの回にスポンサーがついて、そこと一緒に映画の選定を考えたり、海外の方が多いエリアなら字幕を出したりと、企画から運営までをプロデュースしています。
2024年はうるま市、海老名市、晴海ふ頭、りんくうタウン、日比谷公園で開催しました。
古田:
上映機材を買いたくてクラウドファンディングもしたけど、思いっきり失敗して(笑)
参加費は会場にもよりますが基本的に無料なので、みんな楽しく来てはくれるんですけどね。いいイベントだからってみんながお金を出してくれるかと思ったら、そうでもなかったっていう。
今後も無料で続けるためにもギリギリでやっていくわけにもいかないので、無理せずスポンサーがついた時に開催する仕組みにしました。
運営面では「場所を用意して映画を流すから、あとはよろしく」っていう感じですね。
ほかの映画の上映会だと会場デザインなども含めてしっかり作りこむところもあるけど、うちは1番ライトなタイプ。
周囲の音や子どもたちの声、アクシデントなんかも含めて、みんなで場所を作ろうよっていうスタイルですね。
唐品:
川崎競馬場で『ボヘミアン・ラプソディ』を上映したときは1万人を動員したんですが、音響機材のトラブルで音が1回止まってしまったんです。
でもその時にみんなが歌い出して。
古田:
1万人のお客さんに対して僕たち運営チームは4人しかいないし、会場が大きいので機材の部屋も遠いしで、僕たちはもうヒヤヒヤでした。
でも、来た人も一緒にその場の空気を心地よく作ってくれたおかげでなんとか乗り越えられた気がして、感動しましたね。

「場内の芝生の広場には子ども向けのコンテンツもたくさんあるんだけど、やっぱり来てもらわないと分からない。普段来ないファミリー層にも競馬場を知ってもらうきっかけになったと思います」(唐品)
唐品:
音が止まったとき以外も、フレディ・マーキュリーの熱烈なファンたちがそれぞれのエリアをあおってくれるから、ライブ会場みたいになってました(笑)
そこで、僕は野外上映会ってライブなんじゃないかって思ったんです。
ライブ会場にわざわざ出かけて行ってみんなで同じ曲を聴くように、上映会はみんなで同じ映画を見るじゃないですか。周りの反応とかも含めて、同じ生の時間を共有している。
だから、映画の質というよりは、ライブに行ってる感覚に近いのかなって思いましたね。
古田:
どんな映画を見たかよりも「音が止まっちゃって、みんなで歌ったよね」みたいな。
一緒に行った人との思い出とか、家族で騒いだ記憶の方が残りそうな感じがするのもいいよね。
「ねぶくろシネマ」に参加してほしい人は?
唐品:
「ねぶくろシネマ」に関しては、僕たちが子どもと一緒に見たかったことが始まりなこともあり、ファミリー層をターゲットにしています。
古田:
さっきも話したとおり、「ねぶくろシネマ」は声を出していい上映会ですが、このスタイルが固まったのは2016年3月に第2回を開催したときですね。
この時は日程を満月の日に決めて、満月に紐づいた映画で『E.T.』を上映したんですが、映画の終盤ぐらいに満月が出てきて。満月でも映画でも感動するっていう感じでした。
でも何より感動したのは、みんな上映中に声を出してくれるんですよ。
唐品:
E.T.って手が長くて、足は短いじゃないですか。それが映画の序盤に草むらをガサガサ動き回るから、子どもたちが怖がって「キャー」とか「やだー」とか言うんですよ。
でも後半E.T.が死にそうになると、「E.T.死なないでー」って言う。
これにはもう周りの大人たちがグッと来てて。声を出せる映画鑑賞ってすごいなと思いました。
普通、映画館って静かにしなさいって言われるけど、声を出していい状況だとこんな反応が見られるんだなと思って。
古田:
今でこそ声出し上映とか、回ごとに住み分けることも増えたけど、当時はまだ珍しかったんじゃないかな。
それに子どもが小さいと、そもそも映画館にあまり行けないじゃないですか。
なので、子どもと一緒に映画を見られる体験がほしいという想いは強かったです。
子どもたちは集中が切れると広い会場を走り回ったりもするけど、どうせ電車も通るし。温かく見守って、みんなでワイワイできる感じが楽しいねって。

唐品:
この時、「声を出していいよ」とまでは言っていませんでしたが、「(子どもたちが)泣いても気にしないでね」っていう話だけはしていたんです。
だけど、泣いてもOKの延長線上に声を出すようになり、みんなもそれを気にせず、結果的にあの雰囲気が生まれたのが素晴らしかったと思いますし、そこは室内上映とのすごく大きな違いかなと。
この時の感動が忘れられず、それ以降は上映前の司会で声を出していいよって皆さんに伝えています。
「楽しい時は笑うし、泣きたい時はみんなで泣こう。それこそ野外映画の醍醐味です」みたいな話を毎回必ずするようになりましたね。
それに、お父さんたちはどんな話か知ってるから、小さい子とかにその場で補足したり説明ができるんですよね。
古田:
感想も言いながら見られるしね。
感覚としては花火大会に近いんです。お酒なんかも飲みながらゆっくりみんなで同じものを見ていて、それが映画になってるっていうだけで。
これからどんなことがしてみたい?
唐品:
最近の関心としては、素人って面白いなって思ってるんですよ。
コロナ禍を経て、どんな分野でも活躍している尖った人や著名人の話って、今はもうYouTubeだったりオンラインイベントだったり、基本パソコン上で見られるじゃないですか。
それよりは、居酒屋の隅でクダ巻いてるおじちゃんがいて、この人は何を言ってんのかなって聞き耳を立てるぐらいの方が全然面白い。そういう素人の面白さみたいなものの方がこれからは伸びてくる気がしています。
そこで、そういう個人にいかに出てきてもらえる場をつくれるかということを考えて、最近は「面白がる会」よりもさらにライトで、ごく普通のイベントに力を入れて開催しています。
最近調布で開催している「調布交流会」は、co-ba CHOFUやトリエ京王調布の「てつみち」や、今年3月でクローズする「カフェaona」などを会場にこれまで5回開催しています。
これまでのイベントや「面白がる会」で扱っていたようなテーマは設定せず、ただ自己紹介をするだけのイベントです。
交流会って色々なところで開催されていますが、誰でも大手を振って参加できる交流会は意外と少なくて。
名刺交換から始まって、著名人が登壇して…みたいな感じで、どこかクローズかつ何かに繋げないといけない感じがありますよね。
僕たちが開催している交流会は登壇もなければ、場所だけ用意して飲食は各自持ち込み。自己紹介だけして、興味のある人がいたら声をかける、ということしか決めていません。

古田:
その場で何か起きてもいいし、起きなくても良い場ですよね。
僕自身、毎回とても楽しんでいます。
そもそも同じ町に住んで歩いていても、お互いに声をかけなければ出会うことがないですよね。
声をかけていい場があって、なんとなく知らない人同士で乾杯すればもう目的達成なんです。
知らない人と挨拶しただけでミッションが達成されるっていうことは大事で、「何か起こそう」とか「あの人と繋がって何かしなきゃ」みたいな裏のない気楽さが楽しいのかもしれない。
唐品:
もう一つ最近よくやっているイベントに「スナック部室」というのもあって。
これは何かについて話しながらみんなで持ち寄ったお酒を飲むだけのイベントなんですけど。
最近開催した「アウトドア部」では10人ぐらいで好きに集まって、別にみんなで山登りに行くわけでもなく、「どこのキャンプ場に行ってるんですか」みたいな。
地域の繋がりが減っている話はよく聞きますが、最初の繋がり方としてはゆるい大人の部活っていう形式で、お酒を飲みながら韓流スターの話をするぐらいでちょうど良いんじゃないかなって思います。
その人がどこに住んでる誰っていうところまでいかなくても、まずはそれぐらいの気楽な飲み会が街に増えれば街としてすごく面白いし、そこから繋がりも増えると思うんです。

唐品:
「交流会」も「スナック部室」も、僕たちは場所以外は用意しないし、ゲストを呼ぶわけでもないから、パワーやお金をかけずに色んな出会いが増やせる。
そうした場を繰り返し継続することで、純粋に色んな人と繋がる機会が必要だと思っています。
仕事に限らず、人との出会いから何かが生まれるのは基本ですが、そういう普通のイベントを労力かけずに継続できる人がこの町には少ないと思うので、これからも力を入れていきたいです。
特に調布交流会は、今後も調布市内の様々な場所で開催していきたいので、開催場所を提供いただける方を現在大募集中です!
古田:
テンジシツプロジェクトとコラボして「テンジシツを面白がる会」とか「アート部」とかもできそうですね。
調布のおすすめスポット
古田:
なんといっても我々パッチワークスや「ねぶくろシネマ」が生まれる舞台となったここ「co-ba CHOFU(コーバ チョウフ)」ですね。
篠宮(co-ba CHOFU運営):
ここは「co-ba CHOFUを通して心地よく暮らし はたらく人を増やす」をミッションに、非営利型株式会社Polarisが運営しています。
co-ba CHOFU運営のほかにも、新しいはたらき方を発信・実践しながら、コミュニティ形成のお手伝いや、コミュニティスペースの運営、事業者様のバックオフィス業務などを手掛けています。

イベントの企画や運営も行っていて、毎月替わるマスター/ママと、それぞれが興味のあるキーワードでお喋りできる「スナックPolaris」をco-ba CHOFU内の会議室で開いています。
良かったらぜひ遊びにいらしてください。
カウンターに立つマスター/ママも随時募集中です!
合同会社パッチワークス
住所:東京都調布市深大寺元町1-11-1-2F プラスナヤ
ねぶくろシネマ公式サイト:https://www.nebukurocinema.com/
Facebook: 唐品知浩
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住所:東京都調布市小島町2丁目51番地2号 寿ビル2階
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