7月中旬に行われた、コンサートワークショップ参加者の座談会です。
担当するコンサートのグループに分かれて、行いました。
世界の空に耳をすまして 座談会
第1部 どこかで聴いた空の歌



- 私たちのチームの担当している第一部の方は、初心者向けコンサートなのですが、少しだけクラッシックに興味を持ち始めた人が、これを聴くと「もっと好きになるよ」というお勧めの曲を教えていただきたいです。また、お二人がクラッシック音楽好きになっていったきっかけになった曲なのか、出来事なのか、それも教えていただきたいです。
【森下さん】
お勧めの曲というのは、なかなか「これなら」というのは難しいと思います。なぜかというとそれは「出会いのタイミング」だと思うからです。例えば、自分がめちゃめちゃ失恋して落ち込んでいる時にクラッシックのある曲を聴いたら、自分のことを歌っているように思えて好きになるということはあると思うのです。それって自分の気持ち次第でその曲が近かったり遠かったりということがあると思うので。どういう気分の時にどういう曲との出会いをするかですごく違うと思うのです。だから、いろいろな入り口があると思うのですよね。
普通は難しい曲だとされているようなモノでも、ドラッグをやりながら聴いたら、一発でよく分かったということもあるかもしれませんし。(笑)
「どんなタイプの曲をどういう時に聴くとどういう気分になった」というようなガイドがあったら入りやすいと思います。
そういう意味では評論の文章がすごく堅苦しくて難しいことばかり書いてあると、それだけで敬遠されてしまうと思います。「本当に辛いときに救われました」だけでも良いと思いますし「この曲を聴くとハッピーになれます」でも良いと思うので、そういうガイドがあればよいと思います。
自分もクラッシックを聴くのが好きでずっと演奏してきたのですが、大学に入っても自分がクラッシック自体を本当に好きなのかよく分からなかったです。
ベートーベンの後期のソナタが理解できたときに、これは「とてつもないモノなのだな」ということを感じて、それを大事にするようになりました。 もしかしたら、本当に好きになるには時間が掛かるものかもしれないし、でも、もっと表面的に「この曲綺麗だな」というレベルから好きになることもあると思います。だから、すみません、私は「これがお勧めです」とは簡単に言えないです。
【メニッシュさん】
自分の個人的な体験ですけど、私には兄と姉がいて、中学生の時にはブラスバンドでトランペットを吹いていたのです。兄は、現在指揮をやっています。
そんな私が中学校の頃に私は母親にすごく叱られて、悔しくて一人で泣いていたら、兄が「これ聴いてごらん」とラベルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聴かせてくれて、もっと号泣したということがありました。そういう意味では私がクラシック好きになったのには兄の影響があったと思います。
また、私はバンドも好きで「ユニコーン」の追っかけをやったりしていたのですけど、でもチャイコフスキーの五番を聴かせてもらった時に高揚感が違った。
マラーの五番を聴いた時には感動して泣けてきたりしたとか、感動の深さが違った。でも今、楽器はやっていないのですけど。(笑) 今でも、オーケストラに入れるモノなら入りたいと思っています。
【CAS】
出会いとタイミングですね。
【森下さん】
そういう意味では、今回の第一部は、選曲はクラッシックという感じではない曲も多いのですが、メニッシュさんの声はクラッシックの発声ですし、私の演奏もクラッシックの演奏ですので、「クラシックの演奏というのはこういうことが出来るのだぞ」というものは示せるのではないかと思います。
【メニッシュさん】
知っている曲でも、いつもと違った感じに伝わって、そこからクラッシックに興味を持ってもらえることもあると思います。
【森下さん】
ただメロディを演奏しているのではなく、こういう風な曲の捉え方をしているんだという、感じるモノが違ってくれたら、音楽のこういう世界もあるのだなと感じてもらえたら、とても良いと思います。
- 職業にしようと思ったきっかけや経緯などお聞かせください。
【メニッシュさん】
高校時代は合唱部が盛んな学校で、声楽に進学する先輩を見ていて憧れもありました。 歌うのが好きなら職業は大学入ってから考えてみてはと姉の勧めもあって学芸大学に進学しました。音楽の勉強を深めて行ったら学ぶのが楽しくなり、東京藝術大学に入り直したり楽しいことの延長として色々な機会が増えて結果お仕事につながりました。
【森下さん】
記憶に無いですけど、小学校のアルバムを見返すとピアニストになると書いてありました(言わされてたのか、その気になっていたのかわかりませんが笑)。大学や大学院出ても職業になるかはわからなかった。 私は特殊な流れだったと思う、演奏家ではなくスタジオのピアノ演奏やオーケストラのピアノパートを任されたり、ゲーム音楽の編曲など色々な仕事をさせてもらって、やってみて自分に合うとか何かやりがいを持って出来ることを取り組んでいったら、そこから広がって行ったみたいな形です。
うちは会社員になるんじゃない、みたいな親でしたね。音楽をやることに反対もされませんでした、母は歌が好きで、父は物書きだったので。関係でもあって何か表現(音楽)の仕事みたいなことに理解がありました。
- 私が聞きたいのは、私のような素人がコンサートに行くといろんな感情をもらって、癒されて、すごくいい気分になって帰ってきますけど、プロの方だと、ほかの人の演奏を聞いた時、リラックスとか、癒されたりとかできるのかなということです。
自分だったらこう弾く、こう歌う、こうした方がいいのではないかとか。こんなことはできないとか、そんな風に思ってしまったら、楽しめないのではないかなと。どんなふうに他の人の演奏を聴いているのかを聞きたいです。
【森下さん】
確かにあるかもしれないです。というのは、やっぱり自分の中の基準、ある程度のクリアすべき基準みたいな理想はあるので、そういう意味では楽しめないこともあります。それこそ、この間の音楽祭の成田達輝さんのリサイタルを聞きに行って、とても上手でしたし楽しかったですね。聞かれました?
【CAS】
聞きました。びっくりしました。
【森下さん】
やっぱりすごいものはすごいので。自分の中の基準みたいなものはちょっと変わってしまうし、粗(あら)とかを見つけることが得意になってしまったところはあるとは思うんですけど。でもそれはそれとして、いいものはいい、っていうのは変わらないです。
【メニッシュさん】
その通りだと思います。えー?って思ってしまうことはあるけれども。
【CAS】
それは、どういう「えー」ですか?
【メニッシュさん】
それでいいんだ…っていう。それと、それに対するお客さんの反応で、ふーん、とか、いろいろあるけれど。でも、やっぱりいいものはいい。だから、感動はもちろんしますよね。
【CAS】
いいものを聞いたときに悔しいとかは?
【メニッシュさん】
それはない。悔しいはないです。すばらしい、こうやりたいは思いますね。
【森下さん】
うん、こうやりたいはあるけど。
【メニッシュさん】
歌を聞くと、ものすごく勉強モードに入りますよね。いい方の演奏を聞いたら、なるほど、こうすればいいんだなとか、どう歌っているかが見えるので、勉強になります。残念だなと思うのを聞くと、こうすればいいのに、残念とか。若いころはもう少しジャッジするような気持ちもあったかもしれないけど、私としては、年を重ねるにつれて、すべていいも悪いも自分の学びとして。
【森下さん】
そうね。そうそう、ほんと。
【メニッシュさん】
こういうところに気をつけなくちゃいけないんだなあとか。ここは多分お客さまにとっては、いいんだなっていうポジティブな見方もできるようになったかな。
【森下さん】
確かにそうですね。けっ、へたくそ!みたいなことは確かに若いころは思っていたけど、そうじゃない視点は増えたと思います。
【メニッシュさん】
年を重ねて自分にもやさしくなったかもしれない。
【森下さん】
それはちょっとよくないかもしれないけど(笑)
【CAS】
ありがとうございました。
- お二方自身の話というより、コンサート企画に関してのお話をお聞ききしたいです。
今回のオファーを聞いた時、不安があった一方でこんなことができるのではないかという期待もあったと思う。打合せを重ねて状況が進んできて、今はその不安と期待がどうなったのか、CASの強みや弱みは何のか。弱みがあるなら今後どうしていけばいい結果につながるのか、をお聞きしたいです。
【森下さん】
不安というより、ふわっとしていて何がどうなるのか何も分からない状態でした。そういう意味では、自分ひとりで何とかできるものかという不安が一番強かったので、だれかひとり一緒にやってほしいと思いメニッシュさんに声をかけた。二人でやれば大丈夫だと思えました。
進んできた結果どうなっているかという点については、思っていた以上にすごく意義あることができているのではないかという実感を抱いています。
CASの皆さんの熱心な取り組みと、それに対する我々のフィードバックがある。一緒に作り上げているものに対して、ポジティブに進んでいると感じている。今は何の不安もないです。
弱みと言っているが、素人というだけに分からないということはあると思いますね。
CASが考えた曲目を提示されたときは、ここからどうやっていこうかと思いました(笑)
そこから、全体のイメージをこうしたいということを汲み取って、こちらで考えたプログラムを提示した。二人ともそれなりに満足している。
弱みということを感じずに、むしろ自由な発想や熱意を活かしていけば、実際の演者と一緒に良いコンサートを作る新しいやり方となりうるのではないかと考えています
【CAS】
音楽関連を企画する方々とは異なるやり方ですか。
【森下さん】
アプローチもなにも、根本から違う。
あれがいいよねーといってすんなり決まってしまうことが多い。アーティストをパッケージにしているものを提示されることも多く、楽である。実際に仕事をたくさんこなしていくには必要なことである。 でも、今回のように侃々諤々話し合っていろいろ悩んで出てきた結果には、それだけで価値があると思う。
【メニッシュさん】
私もそう思う。CASが弱みと思っている部分は、実は強みである。
こちらでは考えつかない意見があったり。それでいいのではと思っていたがそう簡単には決まらなかったり。例えばタイトル検討のように、いろいろ意見が出て一語一句まで考えることは多くない。これは強みの集まりだと思う。
私もCASが出した曲目を見た時は、一瞬大丈夫か?と思った。BTSはいっているし…ラップあるし…
【森下さん】
ちょっと聞いてみたい気もする(笑)
【メニッシュさん】
しかし、新しいことを考えるきっかけとなりました。
【森下さん】
これでいいんじゃなぁーいで決まるより、考えて悩んで進んでいく方が絶対面白い。
【メニッシュさん】
本当に面白いと思う。 いい企画に参加したと思っています。
- 漠然とした内容だったのに、オファーをなぜ引き受けることにしたのかのでしょうか
【森下さん】
30周年で新しいことやりたいと話をいただきました。財団とは以前から関わりがあるし。内容が分らなくても新しいことにチャレンジするなら、出来ることは協力したいというのが、私の基本的スタンス。せっかくお話しをいただき、面白いことになるかもしれないと思いましたね。
【CAS】
財団とかかわりがなく、オファーが来たらどうしましたか?
【森下さん】
もう少し、どうなるのかを教えて欲しいという気持ちはあったかもしれないが、それも含め、どうなるか分らないということだったので、ちゃんとお話しをしたらやりますということになったと思いますね。
【メニッシュさん】
森下さんからお話しをいただいたので、引き受けました。
【森下さん】
メニッシュさんのキャラクターも含めて、彼女に頼めばどういうことになろうと、最後まで楽しくやれる気がした。声をかけさせていただきました。
【メニッシュさん】
森下さんと一緒に出来るのは喜びです。
【CAS】
私たちは楽しんでやっていますが、お二人はどうですか。 今後、どういう形でサポートをしてほしいはありますか?
【森下さん】
自分たちが作っているコンサートだと思って、熱意を傾けていただける状態が一番ですので、このまま続けていただけるとありがたいです。
- もし自由に空を飛んで行くことができたら、どこに行き、そこで何をしたいですか? 私は、戦地に飛んで行き、平和を願う音楽を流したいです。すると戦争が終わる。そのような曲があると良いと思っています。
【森下さん】
空がどこまでかによりますね。宇宙はどうですか。
【CAS】
宇宙でもいいですし、何も制約はありません。空から何をみたいですか?
【森下さん】
空を飛んでいること自体楽しそうですね。私は、自然の豊かな所で美しいものを見ながら、何も考えずに開放されてゆっくり過ごしたいです。 都市より、人のいない方に行きたいです。
【メニッシュさん】
私もそうかもしれません。すごい高い山の上に行ったり、水の中にダイブしたり、アフリカで動物たちを眺めていたいです。
【CAS】
その後、地元に戻って来たいですか。
【森下さん】
はい、自分の寝床で寝たいです。
【メニッシュさん】
はい。
第2部 星降る夜に想いを寄せて



- ピアニストさんとか、ソロで歌われてる方に聞きたいことなんですが、オーケストラは、指揮者から指示があったりして、こう作っていこうというものがあると思います。
1人で演奏するということは、客観的に、今のは良かったんだろうかとか、ここまで来たら完成だなという、測り方みたいなところが常に自分との対話っていうかになるのかなって思っていて、だからそのあたりの完成度みたいな部分について、どう客観的に向き合ってらっしゃるのかなっていうのを伺いたいです。
【メニッシュさん】
私は全く1人がアカペラで歌うということはなくて、ピアニストさんや伴奏者さんがいらっしゃいますが、練習するときは、やっぱり自分で録音して、聞いて、自分で自分をレッスンするような練習方法はします。それで、森下さんと(コンサートを)やるとなったら、自分である程度大枠的なものをイメージトレーニングしていきますよね。
そしたら森下さんは森下さんで同じ曲でも違うアプローチで作ってきてもらっているので、それを合わせたときに、人によりますが、とことん話合うのが好きな方もいます。森下さんの場合は結構音でバーンって示してくれる、それが私にとってそれって自分と違う表現があったりとかするので、インスピレーションをもらって何か自分が思ってたのと違うことが出来上がったりすることとか、それがすごく楽しいです。
だからコンサートというのは、生ものというか、気持ちとかで(変わってきて)、こうやって練習してっていうか、こんな感じかなっていうようなものがある程度あっても、ステージに乗ったらまた何かお客さんの反応でその場でなんかこう化学反応みたいなものが(あります。) だからこれがもうばっちり完成系、出来上がってる商品っていう感じではなくって、やっぱりなんか同じ曲でも違うとこで歌ったら、また違うふうになっていく、それが一番、楽しいです。
【森下さん】
完成っていうのはなかなかちょっとわかんないんですけど、僕は本番になると結構緊張して、ああ、駄目だったなっていうのが多いんで、だからそういう意味で完成は目指してもなかなかできないんですけども、ただ、やっぱり譜面を見たときにある程度ちゃんと考えて、譜面と向き合ったらこういうことがやりたかった、なんか違うっていうのは、割と理解ができるようになっていくものだと思います。
それって例えばその指揮者がスコアを見て、その団員に指示するのも同じでやっぱり自分が楽譜を見たときに完成形はこれだって思い描いたものに対して自分を近づけていくということだと思います。
私は、譜面に書かれた意図を読み取るっていうことには割と自信があって、例えば初見の譜面をスタジオで録音するみたいな仕事がありますので、それはクラシックをやるときも基本的には同じで、最初に見たときに、こういうことだよなっていうのを理解して、もちろん後からだんだん何か理解が進むことで、特にクラシックの複雑な譜面も多いんですけど、そこをまず実現するために、自分が練習しないといけないところは練習しようと思っています。 ピアノは、幸い、音が出るところが自分から離れてるので、歌う人っていうのは、実際自分で聴いてる音と出ている音に齟齬があって、すごい大変だなってだろうなっていつも思うんですけど、ピアノは割と弾いているものに対して、判断しやすいものだと思うので、だからやっぱり練習しながら、こうやりたいんだけど、まだちょっとちゃんと思う通りに動いてないなみたいなところを練習していくという感じです。
- 私はこのワークショップのお話を伺った時、内容がよくわからずぼんやりした状況でした。でもきっとそのうちにわかってくるだろう。どんな展開になるのか、その過程を体験してみたいと思って参加しました。プロの演奏家のお二人はこの企画をスタートするにあたり、こんな事をしてみたいとか楽しみたいなど、期待していらっしゃることがあれば 教えてください。
【森下さん】
私も最初にお話を頂いた時は漠然とした感じだったのですが、CASの皆さんと一緒に考えてコンサートを作るという体験は「楽しそうだ!」とその時点ですぐに思いました。
ただピアノだけでは発想の広がりが制限されそうな気がしたので、他の演奏者とご一緒にと提案。メニッシュさんにお話をしてこういう形になりました。
参加者皆さんの色々な考えをお聞きし、その熱意を感じ、演奏内容については演者側が責任をもって行こうと強く思っています。
ワークショップで毎回話合いを続けその都度決めていく過程で、それぞれがすごく緊密に連携しているとずっと感じていて、それがすごくいいなと思っています。
コンサートの観客として聴きたい曲、演奏者としてやりたい曲、それぞれの価値観の間に良いバランスがあるのではないかと・・・。
そういう意味で、コンサートを作る人たちみんなのバランスを模索していくことは、新しくて理想的なことなのではないかと考えています。 その材料を頂いていることがとても楽しいです。
【メニッシュさん】
今までは歌曲とか宗教曲とか、自分のやりたい曲でコンサートをすることが多かったです。
今回はテーマを決めるなど、最初から皆さんが活発に意見を出して下さって、参加していて本当に楽しいです。選曲する時も、自分たちは西洋音楽に偏っているということを感じました。
今まで歌ったことがない、演奏したことがないというような曲を選ぶことが出来て、新しい扉を皆さんに開いて頂いたと思っています。
このグループで連携するということがとても楽しいです。
森下さんからお話を頂いた時は想像がつかず、森下さんとご一緒に何かやるんだなと思っていたのですが、 こんなに細かく皆さんと練っていて、今はすごく良い勉強をさせて頂いていると感じています。
【CAS】
私も参加してから調べたり考えたりして、知ることが増えました。お二人が仰る楽しさを同じように感じていることがとても嬉しいです。 ありがとうございます。
- ピアノという楽器の魅力をどうお考えになっていらっしゃるか、お聞かせください。
【森下さん】
ピアノの魅力というのは、楽器としてものすごくファンタジーな楽器だというところだと思っています。
ピアノって、実は減衰音しか出ませんし、しかも発音体が各音で全部違っていて、何かバラバラの音が鳴るものがたくさん並んでいるだけで、音は1回鳴らしたら、ただ小さくなるだけですし、本当はそういう楽器なんです。
だけど、人はそこに何か一体として鳴っているいうイメージをお持になっていて、音と音の間に何か繋がりを感じたり、歌もちゃんと聞こえるし、まさにファンタシーな楽器だなと思います。
だからピアノの音楽を聴くとき、伴奏とメロディーとがバラバラに音がたくさん鳴っているだけなんですけれども、これがメロディーだというのがちゃんと聞こえたりする。
これは、そのこと自体が結構、幻想の世界だと思っています。先ほど、音色もそれぞれ別の弦が鳴っているだけと言いましたが、基本的にピアノの音が鳴る仕組みは全部同じだから同じ音しか出ないんです。
けれども、その中に、昔からピアノはオーケストラだと言われているように、いろいろなイメージがあるわけで、聴いてる側は、タッチによって音が変わると思ってるし、どこまで弾き手と同じくらい感じてもらえているのかはわからないですけど、はやりそういうイメージがある。なので、ある意味、無色の音の中からいろいろな色を聴いていく、そういう楽器だと思っています。
そういう意味では、何にでもなれるし、どんな世界でも表現できる最たる楽器です。
オーケストラだと、楽器の音色がいくつもあって、カラーというものがある程度決まってるので、そういうふうにしか聞こえないという部分があると思うのですが、ピアノは実はもっと自由で、そういう意味のいてはオーケストラよりも、もっと自由度があるんじゃないかと思ったりすることもあります。 そういうところが、僕がピアノを好きな理由かなと思います。
【CAS】
私もピアノの音楽が大好きなんですけども、同じピアノでも、違う人が弾くと全く違う音楽が聞こえるのがとても不思議だと思っていて、そこに個性が出るというのがピアノの表現力の幅広いところなのではないかと思いました。
【森下さん】
その通りだと思います。実は出ている音が本当はそんなに違うはずはないのですけれど、何かそこにいろいろなものが聞こえてくるということですね。
【CAS】
ありがとうございました。
- 次にメニッシュさんに伺います。メニッシュさんは楽器ではなく、ご自身の声で表現をされていますが、その魅力や難しさなどありましたら教えてください。
【メニッシュさん】
歌は、大好きなんですけれど、やはり自分の声を使うものなので、体調管理が何よりも難しいというのは確かです。ただ、自分の気持ちが楽器を通さず、直に音として感情を乗せられるのは、歌うことの一番の特権なのかと思います。
あと、歌詞を乗せられること、そこはもう他の楽器の演奏と一番違うところですね。
でも逆に歌詞があるから歌詞に頼りすぎてしまって、フレーズをどう捉えるかとか、楽譜の分析とか、そういうところを歌詞に偏りすぎてしまわないようにということは常に考えています。 声も一つの楽器として音を繋ぐということも忘れないように、気をつけなければいけないと思っています。
【CAS】
歌は、目の前で歌われたもの聴くとものすごく感動します。ありとあらゆる楽器は人の声を目指しているという話もあるくらいなので、歌は人間の根源に触れる何かを持っているのかもしれませんね。
【森下さん】
伝える力が段違いですからね。
【メニッシュさん】
やっぱり楽器の演奏者の方たちも、歌うようにと皆さん仰いますから。
【森下さん】
結局、みんな歌いたいんですね。
- クラシックは敷居が高いイメージが根強くありますが、お二人からは敷居を低く間口を広げたいと思って活動していると思われます。
この5年位の間でクラシック業界も変わってきたと思いますが、実際業界にいらっしゃるお2人は流れが変わってきたと感じますか?
【メニッシュさん】
オペラの観客は年配の方がほとんどで、クリスマスに娘とバレエを観に行くんですけれど、若い方も多く、老若男女で色々な方が見に来ている。
クラシック業界もそこをなんとか間口を広げようと頑張っていると思います。 良いことだと思うんですけどね。
【森下さん】
業界としては興行として成り立っているかっていうと課題もありますね。
クラシックは特別なもののイメージがある一方、コンサートの数が需要に見合ない多さあります。
そのコンサート本当に必要なのか?(需要があるのか?)
バランスが難しいところもある。 実際、演奏している側は、聴くより演奏している方が楽しいというのがあります。
【メニッシュさん】
演奏者がやりたい事と聴きに来る方々に求められる事が違う。 その調整のバランスを取るのが難しいです。
【森下さん】
もしクラシックをフラットに感じる環境が整って来ていると感じるのであれば、とても良い流れが来ていると思います。
クラシックの中には勉強しないとわからない部分も実際はあります。 それを前提として、何もなくてもすごいじゃんって思える出会いがあればよいですね。
【メニッシュさん】
そもそも異文化をやっているので、異文化のものを根付かせるのは、民族も違うので難しいとは思いますが、 クラシックを提供する側としては、観客が肩の力を抜いて満足感が得られるようなものが提供できるようにと思います。
- まず森下さんに、アルカンとの出会いはどういったところだったのかお伺いしたいのですが。
【森下さん】
アルカンとの出会いは、大学2年生のときです。
学内演奏会で弾く曲を探していて、それこそ鈴木優人君と何か良い曲はないか、みたいな話をしていて、いろいろ聴いた中からこの人の曲がすごくいいと思って、弾き始めたんですね。そこからビビッと来てしまったという感じですかね。
【CAS】
それが今日まで続いていると言うことですね。
【森下さん】
そうですね。
【CAS】
では森下さんにもう一つ、日本人は変にプライドが高いというか、ピアニストは暗譜で弾くものだと聞いたことがあります。
外国人のピアニストはものすごい大御所でも楽譜を置いている方もおられますが、日本人のピアニストは暗譜にこだわる人が多い気がするのですが、いかがでしょうか?
【森下さん】
やはり暗譜で弾かないと本当に入り込めない、みたいな曲があることは確かなんです。
暗譜でやることでようやく到達できるところというのはありますから。 ただ、そのせいで演奏が駄目になるのは良くないんですが、実際は難しいんです。暗譜が不安だと思って譜面を置いてしまうと、結構そのことによってバランスが崩れたりということもあったりするので。
【CAS】
最近はiPadを置いている方も増えてきました。
【森下さん】
私も、最近は置くようにしています。もともと暗譜はそんなに得意な方ではなく、途中でわからなくなると本当に崩壊する危険があるので、置くことは多いです。
ただやっぱり置かない方がうまくいくこともあるし、実際、初見状態で弾いている演奏よりは、暗譜するまで練習した演奏の方が、いい演奏のことが多いのではないかとは思います。
- それでは、次にメニッシュさんにお伺いします。
メニッシュさんはソプラノでいらっしゃいますが、私は第九でもオペラでもソプラノがやっぱり一番の花形だと思っているんですが、ご自身ではいかがですか?
【メニッシュさん】
私は、自分の声質がソプラノなので、どんなにアルトになりたいと言ってもアルトにはなれないのですけれども、性格が結構地味なので、アルトとかメゾソプラノとかに向くような曲がすごく好きなんです。だから私はアルトの方のことを、いいなあって思っています。
【CAS】
なるほど、声が楽器ですものね。ピアノで鍵盤をたたいて音を出すのとは訳が違いますよね。
【森下さん】
同じソプラノといってもいろいろなタイプがありますからね。
- どういう分野でやっていきたいか、今後の方向性についてお伺いしたいです。
また、市民とのコンサートなどを通じて変わってきたことがあるか、クラシック音楽の活動を長く続けてきて、完成形やイメージに変化があるかについても、あわせてお伺いしたいです。
【森下さん】
僕は、基本的に、自分がいいなと思ったものは何でも弾きたいです。
また、頼まれて自分で編曲する仕事も多くやっているので、それもずっと続けていきたいです。例えば、音楽祭でもゲーム音楽の公演などをやりましたが、そういうこともやっていきたいです。
いわゆるクラシック音楽は、一つのある時期の文化だと僕は思っていて、その時期にかかれた音楽は、歴史に残る金字塔みたいな作品がたくさんあり、そういうものに触れた上で、込められているエッセンスを継承していける活動が出来たらなと思っています。 完成形という意味でも、色んなジャンルに触れる時期を経てきたので、考え方も色々柔軟にはなったのかなとは思います。
【メニッシュさん】
若い頃は、これが歌いたい、これがしたい、とにかくいっぱい歌いたいという感じでした。
今後は、出来れば社会貢献ではないが、やっていることに、演奏家だけではない意味を感じることができたら、うれしいなとよく考えています。それが模索中の方向性という感じです。 そして、完成形は変わってきたと思います。歌詞の読み込み方や感じ方も歳とともに変わってきていますし、面白いです。私たちは、譜面にかかれたことと、作詞家の思いと、作曲家の思いが重なったものが歌曲としてあり、それを形にする責任重大な作業なので、そこに寄り添える思考が深まったかなと思います。