第12回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(2)　オーディエンス賞　安住の地～私道かぴさん（脚本・演出）、日下七海さん（俳優）

ー今回せんがわ劇場演劇コンクールに参加されてみて、いかがでしたか？

私道かぴ（以下「私道」）　これまでのコンクールに関西の知り合いの劇団の方々が参加されていて、参加する前からとてもアットホームなコンクールだという噂は伺っていました。参加団体、運営、観客が一体となって作っていくコンクールで、参加する人達の距離が近いコンクールだというお話も聞いていたのですが、実際にそのとおりだったなと思いました。

今回、安住の地の団体アテンドを担当してくださった一宮さん（一宮周平・PANCETTA）をはじめ、スタッフのみなさんがすごく親身になって対応してくださいましたし、一般審査員の方ともあのようにアフター・ディスカッションで直接喋れる機会というのはなかなかないと思いました。

日下七海（以下「日下」）　審査員の方々が講評の時にもおっしゃっていたように、いろんな場所での上演経験を持つ参加者の方が揃っていたという印象を受けました。ただ作品をつくって持ってくるのではなくて、今回せんがわ劇場でいかに上演するか、劇場空間に対してどうアプローチするか、たとえば舞台の緞帳一枚をいかに使うかといったことに対して深い洞察を持った作品が多かったのではないかと思いました。そうした意味で「劇場で演劇を上演する」ということの価値をとても感じることができたコンクールだったと思います。

ー今回オーディエンス賞を受賞された感想をお聞かせください。

日下　もちろん賞をいただけるということは何より嬉しいんですが、コンクールのすべての上演を見てくださった方が「良かった」と言ってくださる賞というのは、役者として特に嬉しかったです。上演したものがまっすぐお客さんに届いたような気がして、それで今回の賞をいただけた感じがしました。

私道　アフター・ディスカッションでお客さんから直接言葉をいただいた時に、あらためて「今回のコンクールの全部の上演を見ないと投票権がない賞なんだ」「時間も労力もかけてくださった方が票を投じてくれたんだな」ということをじわじわと実感することができ、オーディエンス賞をいただけたことをとても嬉しく思っています。

ー『アーツ』という作品について、私道さんの劇作、あるいは俳優の皆さんの演技・演出面などで今回特にこだわられたことはありましたか。

私道　私自身、観客として作品を見ているときには台本の細かな設定などに結構引っかかってしまうタイプではあるので、リアリティとしてどうなのだろうかということをかなり気にしながら執筆をした作品でした。徹底的に作品に対してヤスリをかけるというか、なるべく違和感がないように、あるいは歴史的な事実と齟齬がないように作品を書き進めていきました。

また、いわばコンクールという、本来であれば測れないはずの演劇の価値を測る、あるいは点数をつけられないはずのものに対して点数をつけられなければいけない場所に『アーツ』という作品を持っていったらどうなるだろう？ということに考えが及べばいいなと思って今回の作品のテーマを設定していました。

ー俳優さんにとって、演技の面ではいかがでしたか？

日下　ワンシーンごとに時代が行ったり来たりするので、場面の展開や切替はみんなこだわっていたんじゃないのかなと思います。

作品の中ではアート（芸術）に対していろんな考えを持った人が出てくるのですが、その中で私が演じた役は、違う考えを持っている人の代表というような人物だったんです。そこの「アートに対して否定的な考えを持つ人」の提示の仕方で作品全体のテーマが変わってくるポジションだと思ったので、どういった表現の度合いで演技をしたら押し付けがましくなくひとつの異なる意見を提示できるだろうか、ということをコンクールの当日までずっと考え続けながら演技をしていました。そこが私としては演出ともやりとりを重ね、個人的にこだわっていたポイントですね。

ー安住の地さんのこれから先の活動の展望についてお聞かせください。

私道　今回上演した『アーツ』という作品は、「はじめまして」という意味も込めて、かなりお客さんに寄り添った作品になっていたかなと思います。演劇を初めて見る方でも楽しめるような、お客さんに寄り添えるような作品を作りたいと思って作りました。普段は、無言劇や、どちらかというとかなり前衛的な「これなに……？」と言われるような作品も、京都では多く作ってきたりしているんです。来年の受賞記念公演では、今回とはまた違った安住の地の一面をお見せできたらいいなと思っています。

日下　安住の地ではいろんなアプローチの作品を作るので、毎回新しいことに挑戦しているような気持ちになるんです。一人ひとりの俳優それぞれとしても全員としても、自分たちがやる演劇の面白さであるとか、何を面白いと思うかということをより探求をして深めていきたいなということを、今回の演劇コンクールに参加してみて、あらためて強く思いました。

―来年の受賞公演に向けての意気込みをお聞かせください。

私道　今回のコンクールでは「はじめまして」で出会うつもりの演劇を持っていかせてもらいました。来年の受賞公演で「一年ぶりの安住の地です、お久しぶりです！」となった時にどういった作品を持っていこうかということを、劇団としてもいま悩んでいるんです。お見せしたいものはいっぱいあるんですが、その中からどれを選んでいいんだろうか、ということをよく考えて受賞公演に臨みたいと思います。

日下　俳優としてはどんな作品になっても、全力で上演しにいくのみだと思っています。安住の地では同じメンバーで創作を続けているので、お互いにわかることもたくさんあるのですが、これから創作を重ねていく中でもきちんと分からないところに足を踏み込む勇気を持って作品に取り組んでいきたいなと思いました。

―ありがとうございました。

インタビュー・文　松本一歩（第12回演劇コンクール運営チーム）