―今回のコンクールに参加されてみて、全体の感想としてはいかがでしたか。
第12回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(3) 劇作家賞 神保治暉さん(エリア51 作・演出)
神保治輝(以下「神保」) とても素晴らしかったなと、参加できてとてもよかったなと思っています。劇場がきちんと機能しているというか、コンクールを通して、演劇を中心に人が集まるというせんがわ劇場のコンセプトがしっかりと実現されているという印象があり、希望を感じることができました。
山田朋佳(演出助手、以下・山田) コンクールの特色として「出会い」ということがホームページやフライヤーにも載っていたと思うんですけど、それがちゃんと実現されていることがすごいなと思いました。そしてせんがわ劇場がそういうコンクールをどのようにつくってきたのかというところにとても興味が湧きました。
神保 劇場の雰囲気が良かったからというのもきっとあると思うんですけど、今回のファイナリストの方々に対しても親しみを感じています。共演した皆さんとの関係性をつくってくれたコンクールだなということを感じています。
―今回、神保さんは劇作家賞を受賞されました。受賞の率直なご感想をお聞かせください。
神保 もともと私は劇作家賞というものから一番縁遠いのではないかと思っていました。だからすごく予想外でびっくりしたというのが最初の印象でした。今年3月のかながわ短編演劇アワードに参加した作品は観客賞をいただいたのですが、その時の審査員の講評では、テキストの欠陥というか、テキストの強度の問題という点についての指摘が多かったという風に僕は受け取っていたんです。自分としてもそのテキストの精度、というものが課題であり弱点だな、と思っていました。
それから間を空けずに5月にはすぐ『てつたう』の上演があるということで、自分自身、テキストに対して超えるべきハードルがあるということを意識した状態でスタートしました。だからなおさらというか、今回の『てつたう』は出演者とみんなで一緒につくったテキストなんですが、チーム全員でいただいた賞としてすごくありがたく思いましたし、私個人としても、そのハードルをある意味乗り越えられたのかもしれないという自信にもなりました。
山田 今回はキャストさんが多かったので、本当にたくさんの意見が稽古場で出てきました。それらの一つひとつの意見や、話し合うテーマに対して神保さん自身も逃げたりせずに、丁寧に時間をかけて解決しようと向き合っていたのがとても印象的でした。いろんなことについて「全員で話し合う」という時間がしっかりとられていたな、と思います。
―今回の『てつたう』という作品でもっともこだわった点は?
神保 「テキストにどれだけ自由度があるか」ということにこだわって、強く意識して、どうしたら台本が悪い意味での拘束力にならないようなテキストになるんだろう?ということから今回の作品は出発しました。その結果、ト書きの効果音や台詞も平たく書かれたテキストをみんなで回し読みをして「あ、この音気持ちいいね」とか「このト書きは口に出して読んだ方がおもしろくない?」という意見をもらったりして上演台本ができあがっていったという感じでした。
作品を通じて一番やりたかったのは、からだをどうやって舞台上にのせて、観ている人は、からだを通して日々の人との接触みたいなものを思い出していけるだろうか、ということだったんです。なのでやはりテキストの段階で拘束力がないこと、「こんなからだをしているんだろうな」ということがなるべく限定的にならない、余白を残したテキストのありようをいろいろ試すようなつくり方をすごく心がけていたかなと思います。
山田 「余白を残す」という部分について、「非効率的にやる」みたいなことに、たぶん今回の稽古場では挑戦していたように思います。いろいろ試す時間を惜しまない、というのが、今回の稽古場で一番大事にしていたところですね。おそらくその考え方が、細部についても決めきらないという部分に繋がったり、これまで以上に自由な発想に繋がったりしていたなと思います。
―ありがとうございます。今回のコンクールでの劇作家賞の受賞を経て、今後の活動に向けていま考えていることや展望をお聞かせください。
神保 このところコンクールへの参加が立て続けだったということもあって、ちょっと気持ち的には疲弊しているというのが正直なところではあります。と言いつつ、次は池袋ポップアップ劇場(※8月24日19:00開演、インタビューは6月に実施)というイベントで、『かつてのJ』という作品を上演します。20分くらいの短編なんですけど、その分これまでの抑圧というか、溜まってきた部分を爆発させるようなことをやりたいな、と思っています。
演劇のつくりかたそのものについても、個々の意識だけでハラスメントを完全に防ぎながら、かつ作品の品質を担保するっていうのはちょっと難しいなと思っています。もっと構造的に、プロダクションの構成から変えていかなければならない部分も大きくて、そのためには様々な課題がまだまだあると思っています。そういうことが実現できるまでは、やっぱり小規模で時間をたっぷりかけて、関わる一人ひとりときちんと向き合える信頼関係をしっかり築けるつくり方をしていかなければいけないと思っています。
これから先、規模を大きくしてもそういう事故が防げるようなシステムを蓄えていく、というか、すこしずつ学んでいくということをしていかなければいけないなと思っています。
―ありがとうございました。
インタビュー・文 松本一歩(第12回演劇コンクール運営チーム)