―まずはコンクール全体の感想をお聞かせください。
第12回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(4) 演出家賞 星善之さん(ほしぷろ 演出)
星善之(以下「星」) まず、運営チームを、過去のファイナリストを経験した方々が務めてくださっていたので、手厚いフォローをしていただいてると感じました。劇場の案内ひとつでも、運営チームの動き方を見るだけで、「この人は劇場をよく知っている人だな」と分かり、安心感がありました。ですから、劇場入りしてからはとても楽にやらせてもらえたという印象です。事前連絡もとても密で、丁寧に対応していただき、製作がやりやすかったです。
作品でいうと、メタ的な要素(芝居の中で演じている人が実際に今その劇場にいるというような設定)の作品が盛り込まれた「盛夏火」と「階(缶々の階)」、社会派と謳われている「エリア51」や、アーティスティックな作品をつくる「安住の地」と、バランスよく色々な作品を見ることができ、劇場の使い方、演出の仕方、俳優の在り方など、面白く見られました。誰目線だよって感じではありますが(笑)。
講評が、どうしても時間の制限があり、審査員とももう少しやり取りできたら嬉しかったです。また、参加団体同士の交流ももう少し持てたならよかったとは思いますが、コロナ禍でなかなか難しい部分もあるなと思いました。
―ツイッターで拝見しましたが、エリア51とコンクール前から交流があったようですね。
星 このコンクールでのテーマとして「出会う」という要素があったので「ならば出会うか」と思い、情報発信をしていたエリア51との交流を図りました。ほしぷろはエリア51のイベントに参加し、エリア51にはこちらの稽古場に来ていただいて一緒にワークなどをしました。今回のほしぷろのクリエイションメンバーもこういった交流に前向きだったので、そのような機会を設けることができました。
―素敵な取り組みだと思います。実際にコンクールを終えて、ほしぷろとしては星さんの演出家賞、そして出演者の瀧澤さんの俳優賞という結果でした。受賞したお気持ちをお聞かせください。
星 受賞直後にも申し上げましたが、メンバー全員で獲った賞という感想でしかないです。それができるメンバーで挑めたということはとても嬉しいことですが。演出家とはなんだろうということをあれ以降ずっと考えています(笑)。自分が演出家であると名乗ったことが一度もないので。
―ご自身の中で、肩書きを名乗るとしたらどのようになるのでしょうか。
星 ここ3年くらい悩んでいて、俳優というと俳優に申し訳ないし、演出家というと演出家に申し訳ないなと思っています。自分は何者なんだろうというと、演劇が好きで演劇を作る人というのか……演劇が好きかどうかもよく分からないんですけど。演劇らしい演劇はあまり好きでないというか、嫌いでもないんですが。何というか、観客を巻き込んだ形のお芝居が好きですね。……自分では、表現活動している人ということが多いような気がします。
―応募してくださった映像を拝見した時にも思いましたが、紙芝居屋さんのような語りかけ方のように感じました。
星 紙芝居小屋ってとても興味があって、昨日も、コンクールの時にドラを貸してくださった方の紙芝居を見に行きました。その方は、新潟県の長岡市で30年くらい紙芝居をやっている方なんです。そこで改めて思ったのが、紙芝居のような一緒にお客さんと会場や作品の空気を作っていくというような作風が好きなんだなと。だから紙芝居にも影響を受けています。観てくれている人に、「一緒に旅しようぜ」と語るような、ストーリーテラーのような、案内人のような立ち位置を意識しながら、僕個人は舞台には立っているのかもしれません。
―今回の作品でもそのような語りかけで始まっていきましたよね。作品について少し聞かせてください。使われたドラはどのようにして決まって借りてきたのでしょうか。
星 ドラを使いたくて、Facebookで貸してくれる人を募集し、知り合いの紹介で、借りてきました。作品を立ち上げるにあたって多くの時間をディスカッションに費やしました。時間にして4,50時間くらい。その中で、テーマとして、輪廻、循環といった「輪」を連想させるワードがあがってきたのと、作品の中で出てくる、銃を打った時の「がーん」や小十郎の頭の中に響いた「ががーん」という音の表現とが重なって、それがドラのイメージにつながりました。ドラを使うということは、どう使うとか、いつ出すとかは置いておいても、早くから決まっていましたね。
俳優の瀧澤綾音さんが巻いていたLEDライトも、稽古でたまたま僕が持っていったものを稽古の途中で綾音さんが纏い始めたのを見て、それが美しくて、意味とかは置いておいてこれは使おうとなりました。
紐で山を作るということだけはディスカッションをする前からなんとなく頭の中で決めていましたが、そのほかのことは稽古場でディスカッションをし、実際に身体を動かしながら創作していきました。
―先ほどの演出家とは?の話に繋がりますが、そのような創作環境を作れるというのも演出家の力のような気がしますね。コンクールを経て、今後の展望を教えてください。
星 ほしぷろは基本僕一人のユニットではありますが、今回のように、外から人を呼んでのクリエイションも年一回くらいはやっていけたらと思います。僕は田舎出身だからか、山や、風、土など、生活の中に当たり前にあった自然から感じたことを盛り込んだ作品をつくってきたのですが、今後は自分が生まれ育った環境とは違うところで、滞在しながら作品を作っていきたいです。
それから、将来は宇宙でやりたいと謳っているので、まずは世界各地で上演したいという野望はあります。今身の回りにある環境、現実を捉えながら作品をつくっていき、それでできた作品を鑑賞した人が、作品のことがよくわからなかったとしても、率直に裏表なく「作品が分からない」と言えるような懐の深い作品にしていきたいなと思っています。
―ありがとうございます。ぜひ、コンクールスタッフ一同、今後のほしぷろ、星さんのご活躍を楽しみにしております。他に言い残したことなどありますか?
星 さっき演出家ってなんだろう?とは言ったんですが、挑戦できるのであれば他の団体さんの演出をしてみたいなと思っています。僕は脚本を書かないので、例えば、安住の地の私道さんが書いた本で、安住の地の俳優さんと僕で作品を作るような機会があったら楽しそうだなと。
―これはぜひ掲載しますね(笑)。書いてしまえばきっといつか実現しますので。ということで、これにて本当に終わります。ご丁寧にお答えいただきありがとうございました。そして改めて、おめでとうございました。
インタビュー・文 一宮周平(第12回演劇コンクール運営チーム)