※掲載の文章は、第12回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。
安住の地『アーツ』講評
【松井 周】
おつかれさまでした。冒頭に出てきた人達が、どこの人達なのか本当に分からないところから始まりました。衣装が特徴的で、その衣装でどこに連れて行ってくれるんだろうという感じがしたのが的中して、歴史的に戦中や現代、原始時代まで遡る感じを劇の中で見せていただいた。スケール感がすごく良かったし、歴史だけのスケール感ではなくて、視点の持って行き方が(普通に美術館に行く人であったり、美術に関わる人であったり、描く人であったり、それを観る人であったりということでの視点の動かし方)非常に富んでいて、そのことがシーンの繋がりとしてどんどん視点を変えて見られるというところも面白かったです。
一方で、40分じゃ観きれない、3時間くらい欲しいなという感じのスケールの大きさでした。もっと知りたい、もっと人間関係も知りたい、どのような状況で絵が描かれ、戦中にしても現代にしても原始人にしても、どのようにその絵と関わってきたかをもう少し細かく、ディテールとして知りたかったという感じはあります。
それは演出でも感じたところで、もしかしたら(身体的に)魅せることで説明をしようとしているのではと感じました。例えば、モノローグで、もう(それ以上)説明しなくてもいいかも(しれない)という場面で、何で動いてるのか、どういう根拠で動いてるのか分からない身体表現があって、逆にちょっと気になっちゃいました。もしかして何かを説明しようとしているんだけど、説明になってないのでは?みたいに思ってしまったというところがありました。ありがとうございました。

【三浦直之】
おつかれさまでした。この限られた時間の中で「これだけ壮大な話をやってやるんだ!」というところにまず好感を持ちました。キャラクターの数もとても多いし、時間も空間も飛ぶので、こういう作品は混乱しやすいと思うんですが、シーンの入り方の整理がとても丁寧だなと思いました。飲み会が終わった帰り道で見送ってバイバイ。これでちゃんと「今、飲み会が終わって帰り道なんだ」ということが一瞬で理解できる。これだけの分量の中でどうやってちゃんと観客をこなさせずに繋いでいくかという技術が高いなと思いました。
それから、ある瞬間に「観る」が「描く」に切り替わっていくのは、今、観客がここで行っていることだと感じました。演劇を観ている時、(観客は)「観る」という行為を通して、自分の中で何かを産んでいっている。「観る」「観られる」という関係性が溶けていく感じがありました。
後半に出てくるティッシュカバーの台詞が、僕はすごくいいなと思いました。それまで、生活と切り離されてアートが存在していたけれど、ティッシュカバーというアイテム1個使うことで、生活の中にちゃんとアートが繋がっていく。「生活の中にあるんだ」「暮らしの中に存在しているんだ」ということから、ラストシーンに向かっていく。ここの繋がりにディテールを感じました。こういう会話はもっと書いてほしいなと思いました。おつかれさまでした。

【徳永京子】
安住の地さん、オーディエンス賞おめでとうございます。おつかれさまでした。情報量が多い作品で、「その心意気や良し」と思う一方で、アイデアが多過ぎて使い切れず、ちょっとないかなと感じたところもありましたので、その点についてお話しします。
例えば、木片を持った登場人物が何人か出てきますが、「なぜ木なんだろう」と考えていくと、それは(物語の中心にいる家族の)次男を美術学校に行かせるために切った庭の立派な欅の木との繋がりであったり、絵を描く紙は木(パルプ)からできていること、多くの洋画は木製の額縁で飾られることなど、ストーリーに関連するイメージの連鎖が次々と動き出して、戯曲に書かれている以上の広がりが観客の中に生まれますよね。
シーンの移行はスピーディでスムーズで、それはとても素晴らしいことなのですが、この作品の重要なモチーフである欅が切られた時の匂いや断面の色、生命力などを、じっくり観客が味わう凪の時間があっても良かったのではないかと思います。そのあとに来る戦争の空襲のシーンも、欅の伐採が丁寧にみずみずしく描かれていたなら、かなり良いコントラストになったのではないでしょうか。
セットや衣装、メイクなどにもそういう種がいっぱい仕掛けられていたはずで、それをもう少しゆっくり味わいたかった。
冒頭で触れられる美術館の絵は弟のものだったかどうか、専門審査員の間で議論になりました。「私はこう解釈した」「私にはこう観えた」という意見がたくさん出るのは良い作品である証拠です。次回作も楽しみにしています。

【高田聖子】
おつかれさまでございました。素晴らしかったです。美術やアートを題材にするというのは、すごく難しかったと思います。アートの評価や見え方を、演劇で表現するのは難しかっただろうなと思いました。
戯曲をとても面白く読ませていただいて、木を切り倒されるところが特に印象的だったので、どのように表現されるのかちょっと楽しみにしていたところがありました。それが(あっさり)「あ・・・木が切り倒されちゃったんだ・・・」という感じがして、ではどうしたら良かったかというのは私にもわかりませんけれど、それがキーポイントだったのかもしれないなと思いました。 あと、役者の皆さんが、とても口跡がよく、簡単に言うと上手でしたので、まっすぐに、この素敵な台詞を聞きたいなと思ってしまいました。壮大な物語なので、いろんな身体的な動きも面白く良かったですが、もっと直に(台詞を)聞きたい、浴びたいなと思いました。おつかれさまでした。

【長田佳代子】
おつかれさまでした。おめでとうございます。普段どれくらい稽古されているのか?どうやって稽古しているのか?というぐらい、稽古量が確実に完成度をあげることに貢献していて、凄く稽古しているなと思いました。それはこの作品の稽古というよりも、1人1人が安住の地を表現する上で、日常ものすごく努力してるなというのが見える身体の作り、発声。小劇場なので台詞が聞こえないことはないんですけど、とはいえ、やはり「ん?」という時も作品によってはあると思うんです。それが一切なくて、この作品を伝えるための言葉の喋り方、身体の動かし方を、日常生活も含めてすごく努力していらっしゃるのが作品に反映しているなと思い、そこにひっくり返るくらい感動しました。
衣装や小道具など作品づくりも一つひとつ皆で話し合いながら、アイデアを出しながら、すごく拘って創っているというのが、凝り固まったものもなく、その時その時でやりたいことを楽しく舞台にのせるために何ができるか、ということを楽しんでいると感じました。それは絶対的に必要なことで、そういうことを全く否定せずに生き生き舞台を創ることを毎日続けているということに非常に好感が持てました。
その拘ってやっているがゆえに、一つ一つの繋がりはどうなのかと見た時に、それぞれのシーンはとてもよくできていたが、スイッチチェンジするときの照明は、じゃあこれでいいのかとか、舞台美術と小道具の繋がりはこれでいいのかなど、外の枠組みから俯瞰的に1回作品を見てみる時間をみんなで創ってみると、また違う道にみんなで旅行しちゃうんじゃないか。違う作品に旅ができるんじゃないかなと。 そう思わせるぐらいの力を持っている劇団さんだなと思いました。本当に素晴らしかったです。おつかれさまでした。
撮影:青二才晃(ちょうふアートサポーターズ)