劇場便利帳 第3章
今回も前回に引き続き「舞台照明」に焦点を当てていきましょう。
照明器具は、置いただけでは自分で勝手に当てたいところを照らしてくれるわけではありません。
ので・・・明かりを合わせる作業が必要となります。
その明かりを合わせる作業を、撃つという意味で「シュート」といいます。
高いところに設置された照明1台ずつ調整していくのは、脚立や高所作業車などの高所作業なうえ、なかなか時間のかかる作業ですので、ある程度簡易的なシュート作業は写真のような、なが~い棒を使って行います。
およそ10mもあるこの介錯棒(かいしゃくぼう)は、扱いなれない新人の頃は先がブルブルぶれてしまい、全然思った通りに動いてくれません。
何度も何度も経験を積むうちに重心の取り方や、持ち上げるコツを掴み、ある時、ひょいっと持てる日が来るんです!
ようは・・・練習あるのみということですね!
くすのきホールでもこの長さ。
知ってるとちょっと便利 PART9 ~照明設備 舞台上~
さて、前回は様々な特性を持った照明器具についてご紹介しました。
催しによっては100台以上使われる照明器具は、劇場のあらゆるところに設置され、舞台上を照らしています。
もちろん、明るくする「見せる」目的だけなら、正面から光を当てれば大丈夫です。・・・が、あくまでも舞台照明なので、明るく見せるだけではいけません。(もちろん見えることも重要ですよ!)
舞台照明の4要素は「視覚 正しく見せること。」「審美 美しく見せること。」「写実 現実らしく見せること。」 「表現 心理を描写すること。」です。
つまり、「美しく見せる」ことも舞台照明の役割なのです!
だからこそ、1つの物を見せるだけでも、多方向から対象物を照らしています。
今回は、劇場で照明器具が、いったいどんなところに設置されていて、そこから照らす光がどんな役割を果たしているのかをご紹介しましょう!
① プロセニアムサスペンションライト
② サスペンションライト
バトンに単独で吊り下げて使う照明を、サスペンションライト(Suspension Light)と言います。 「Suspension」は「ぶらさげる」という意味で、サスバトンと呼ばれるバトンには照明器具用のコンセントが付いています。
プロセニアムサスペンションライトとはプロセニアム形式の劇場のちょうどプロセニアム部分にあるサスペンションライトです。
ここに設置される照明器具の役割は、好きな場所に好きな器具を吊り下げられることから、舞台照明4要素の視覚・審美・写実・表現なんでもござれ!
略す場合は「サス」「SUS」と表記・表現します。
サスバトン
色んな照明器具がびっしり吊り下げられてます。
③ ボーダーライト
バー状の形をした、舞台全体を上部から平均 に照らす樋状の照明器具です。
平板な拡散光で影を生じさせることなく、まんべんなく照らすことから「作業灯」「地明かり」とも呼ばれます。
このボーダーライトは、劇場には必ずある、最も一般的でフラットな照明です。
役割としては、「作業灯」と呼ばれるように、視覚、写実部分を担ってます。
でもでも、作業灯としての役割があまりに常用で意外に知られていませんが、日本舞踊や歌舞伎で使われる「松羽目」はこのボーダーライトのフラットな特性を利用して美しい松の情景を表現しているんです!
腐っても鯛ならぬ、腐っても舞台照明・・・ですね!
省略する場合は「ボーダー」「BL」と言います。
松羽目
くすのきホールにも、グリーンホール大ホールにも松羽目があります!
壮大な松の木は、なかなかの圧巻ですよ!
④ アッパーホリゾントライト
舞台奥にあるホリゾント幕を照らすライト。
上部から照らしているものをアッパーホリゾントライト、下部からのものをロアーホリゾントライトと呼びます。
多くの場合、光の三原色を含めた各4色ずつカラーフィルターが入れてあります。
ロアーホリゾンとライトよりもアッパーホリゾントライトのほうが濃い色が多く入っているのが一般的で、それは、下を明るめにした方が圧迫感のない明かりが作り出せるという定説があるからだそう。
主に背景を染めて地平線や空、海などの雰囲気を出す審美・写実・表現の役割を担ってますが、他の役割として、白いホリゾント幕への他の明かりが床からハレーション(反射)し、影が出ることを防ぐ・・・という役割も担っています。
床のハレーションって??
床に当たってハレーション(反射)した光で、奥の何も当たっていないホリゾント幕がぼんやり明るく見えるのがわかりますか??
このハレーション・・・非常に厄介で、映像を出しながらの催しの時には、毎回こいつに苦しめられます。
いかにハレーションをホリゾント幕やスクリーンに影響させないか試行錯誤し、照明を調節しています!
今さら聞けない・・・舞台照明のあれこれ その2
Cに見えます???
そういえば・・・舞台照明のコンセントって見たことはありますか?
舞台照明のスポットライトは、皆さんのご家庭にある照明器具よりもかなり大きくて明るいのですが、その分電力も大きいので、プラグもコンセントも特別仕様です。
もちろん、皆さんのおうちにあるコンセントとはずいぶん形が違います。
口がアルファベットのCの形をしているので「C型」と呼ばれています。
何か引っかかっても抜けづらく、ちょっとくらい踏まれても大丈夫!(もちろん何事もないのが一番です)
知ってるとちょっと便利 PART10 ~照明設備 客席側~
次に、客席側・・・つまり 舞台を前から照らす照明についてご紹介していきましょう。
① シーリングライト
客席の天井に設置されており、舞台正面から照らす照明を「シーリングライト」(Ceiling Light)と言います。
「シーリング」(Ceiling)とは英語で天井のことで舞台面の斜め上から照らすことで、舞台照明4要素のうちの視覚の役割を果たす代表です。
舞台上からの照明(サスペンションライト)だけでは陰ができるなど客席から見づらくなってしまうので、
客席側からも照明を当て、役者の顔や表情などを見やすいように照らすものです
照明図などで略するときは「シーリング」「CL」などと呼称されます。
くすのきホールのシーリング
シーリングから見る舞台って、こんなに小さいんです。
②フロントライト
客席の両サイドには「フロントライト」(Front Light)があります。
これは、客席から舞台を観て斜め上から舞台を照らすもので、シーリングライトと並んで客席側からの照明(前明り)として欠かせない視覚を担う存在です。シーリングライトと同じように前から照らしますが、少し斜めから照らすことで対象物を立体的に見せることが出来ます。
略するときは、「フロント」「FR」などと呼称されます。
くすのきホールのフロントライト
フロントライトからは舞台はこんな感じで見えます。
知ってるとちょっと便利 PART11 ~光の方向で別人!?~
照明編もいよいよ最後となりました。
照明器具が様々な場所に設置されて、様々な方向から舞台上を照らしていることはご理解いただけたでしょうか?
それぞれの場所の照明にそれぞれの役割があるのです。
それでは、ヴィーナスにモデルになってもらって、実際に色々な方向から照らし、どんな風に見えるのかをお見せしたいと思います。
・・・ヴィーナスです。
いわゆる、皆さんが客席で見ている完成した照明で照らされたヴィーナスです。
極端に明るいところや暗いところがなく、しかも立体的になり、とても自然できれいに見えます。
ではでは、このヴィーナスに一体どれだけの方向から光が照らされているか確認していきましょう!
真上から照らす(サスペンションライト)
まず、舞台上の真上から照らしてみましょう。
サスペンションライトに設置されている照明からの明かりになります。
一応見えています・・・見えていますが、頭のてっぺんだけ光っていて顔の彫りで顔の表情がほとんど見えません。見えないだけに、なんだか不気味な雰囲気になります。
後ろから照らす(サスペンションライト)
斜め後ろの上の方から照らしてみました。
顔の表情は相変わらずよく見えません。
でも、真上からの時と比べて首から方にかけての輪郭がはっきり出ています。
影もこんな風に出て、これはこれで演出された独特の雰囲気ですね。
前から照らす(シーリングライト)
真正面の上から光を照らしてみました。
顔の表情はわかりますが、ヴィーナスの彫りの深さにしても、なんとなく立体感のないのっぺりした感じです。
斜め前から照らす(フロントライト)
今度は斜め前から照らしてみました。
正面から当てた時よりも立体感は出ていますが、これだけだとやっぱり正面が暗いので、表情も暗い印象です。
真横から照らす(ステージサイド)
立体感を一番出せるのは、ステージサイドスポット(SS)が一番効果的です。
正面やななめ前から当てた時よりも輪郭が際立って見えて、かなりシャープな印象になりました。
光を床に出さないように対象物だけ照らすと、暗い中で人物だけを立体的に浮かび上がらせる効果を得られるので、ダンスの照明には欠かせません!
片側だけだとこんなミステリアスな雰囲気に!!
全方向から照らす
全方向から照らすとこの通り!
立体物は全ての面を照らすことで、自然に美しく見せることが出来ます。
もちろん、わざと表情を見せない・・・なんて演出効果的に見せない技もあります!
さて、2回にわたってご紹介した「舞台照明」いかがだったでしょうか?
照明ははっきり目に見えるものなので、その効果は絶大です。
「発表会や演奏会で、今回はちょっといつもと違う照明にしてみたい」
「こんな照明にしてみたいけどどうすればいいの?」
など、ぜひ遠慮なく舞台スタッフまでご相談いただきますようお願いいたします。
それでは次回は、いよいよ「舞台音響」についてご紹介したいと思います!