劇場便利帳PART12からです。
ここからは劇場で使用される舞台音響について解説します。
劇場便利帳 第4章
今さら聞けない・・・舞台音響のあれこれ
さて、この劇場便利帳も大詰めです。最後に「舞台音響」に焦点を当てていきましょう。
まず、「舞台音響」何なんでしょうか?
ずばり、舞台音響とは舞台を「音」や「音楽」によって演出すること及びその人のこと!
舞台照明と同じように舞台音響にも「音の3要素」というものがあります。 ①音の大きさ ②音の高さ(音程) ③音色 がそれにあたります。この3要素を使い分けて、音響は聴覚に訴える世界観を創り上げていく、舞台では欠かせない役割を持っているのです。
この「音響」という言葉、舞台では音楽、効果音、マイクによる拡声などを指します。
音響といえば、ぱっとコンサートやイベントなども浮かぶと思いますが、コンサートやイベントでは「音響」ではなく「PA(Public Address)」と呼びます。これは音を大きくする拡声だけのことを指し、音響効果とは性格が似ていて非なるものです。
なので、現場では「~さんて音響さんなの?」「いやいや、PAさんだよ~。」みたいにとちょっと分けて呼んでいたりもします。
ちなみにですが、くすのきホールやグリーンホールに常駐している音響さんはどちらかといえば「PAさん」に近いです。
劇場の特性から、コンサートや講演会が多いからです。
「PA中です」
音響卓を客席において(仮設)オペレートすることもあるんですよ!
知ってるとちょっと便利 PART12 ~そもそも拡声装置って?~
先ほどから、拡声、拡声と言っていますが、「え?拡声って?音を大きくすること?マイクのこと?」と思われているかもしれませんので、ここからは「拡声装置」についてご説明しましょう。
拡声装置とは電気を使って音を大きくするものです。
拡声装置・・・マイク!と連想しますが、実際は・・・①マイク → ②ミキサー → ③アンプ → ④スピーカーのようにつないで音を増幅させ、どれが欠けても拡声できません。
それでは、上記の接続順に拡声装置を見ていきましょう!
知ってるとちょっと便利 PART13 ~マイクをちょっと詳しく知りたい~
マイクは、言わずもがな、音声(=空気振動)を電気信号に変える装置のことです。
主にダイナミック型とコンデンサー型があります。
え?そんなに種類があるの?と思われるかもしれませんが・・・もちろんです!
照明機材と同じように、マイクも用途に合わせて、その特性を生かせるよう使い分けています!
ダイナミックマイク
音声の圧力による振動でマイク内部の振動板が振動し、コイルが動いて電気を起こします。
耐久性に優れているので一般的によく使われています。
主な用途:アナウンス、ヴォーカル、ギターアンプ、ドラムのキックなど
A)SHRE SM58 ヴォーカル、司会など
B)SHURE SM57 ギター、ドラムのスネアなど
C)SHURE BETA57 ギターアンプなど
コンデンサーマイク
振動板と固定電極の間にあらかじめ電気を蓄えておき(=コンデンサーの容量)
音声の圧力による振動で、振動板が動くと容量が変化します。
その変化を電圧をとして取り出す仕組みです。
ミキサーからマイクケーブルを伝って電圧をかける場合とマイク本体に電池を入れる場合があります。
繊細で音質が良いのですが湿気や衝撃には弱いのでデリケートな扱いが必要となります。
主な用途:ピアノやコーラス・オーケストラの録音、落語、ドラムのオーバーヘッドなど。
D)SONY C38B 漫才、落語など
E)AKG C391B ドラムのハイハットやオーバーヘッドなど
F)DPA 4006A 録音用吊マイクなど
ワイヤレスマイク
音声を電気信号に変えたものを電波で飛ばす仕組みです。
1本につき1つ電波を受信器に発信し、その受信機が受信できる信号の数がそのホールで使えるワイヤレスマイクの本数となります。
マイク本体が送信機となるので電池が必要ですが、ケーブルがないので動きに制約がかかりません。
但し、電波を受信するアンテナから遠く離れたり、扉などで遮断されると音が途切れてしまいます。
くすのきホールは合計4本までです。
手に持つハンドタイプと、胸元にクリップで留めるピンマイク(2ピースともいう)があります。
頭部に装着し、口元にマイクを向けたヘッドセットと呼ばれるものもあります。
ハンドタイプの主な用途:ステージ上で動くトークやヴォーカルなど。
ピンマイクの主な用途:両手を使って話す講演、テレビ出演者のトーク、演劇、ミュージカル。
ヘッドセットマイクの主な用途:激しく動くダンス等、衣装にマイクを装着できない演劇、ミュージカル。
G)SHURE UR2/SM58 トーク、ヴォーカルなど
H)SHURE UR1/MX150B 両手を使う講演、ミュージカルなど。
知ってるとちょっと便利 PART14 ~マイクを吊っちゃうの!?~
マイクには様々な用途に合わせた種類があることを紹介しました。
皆さんがなじみのあるマイクの使われ方は、歌手が手に持ってたり、マイクスタンドについていたり・・・といった利用方法ではないでしょうか?
しかし、実は吊り上げられて利用されることもあるのです。
今回紹介する、3点吊マイク装置はオーケストラの録音において非常に重要で、まさにメインマイクといっても過言ではありません!
3点吊マイク装置だけで録音された楽曲もあるくらいです。
オーケストラの録音だけでなく、小編成のリサイタルを含め、ホールでの録音は、写真のように天井からステレオペアのマイクを吊り下げて使用するのが一般的です。
客席前方の天井から3点それぞれワイヤーを下ろしてジョイントさせ、そこにマイクを吊ります。
ワイヤー範囲内の好きな位置に動かせ、高さも調節できます。
だからといって自由な位置に設定すると、観客の視線に入ったり、前から当てる照明の邪魔になるので要注意です!
結果、3点吊マイク装置はかなり高い位置にある事が多いです。
日本のホールの3点吊マイク装置普及率はおそらく世界一といっていいでしょう!
日本全国津々浦々のホールに設置されていますので、コンサートの時にはちょっと上を見上げてみてください!
知ってるとちょっと便利 PART15 ~マイクの指向性って?~
マイクの指向性ってなんですか?
簡単に答えれば、マイクがどの方向から音を収音できるかという特性のことです。
捉えたい音を最大限拾い、ハウリングや不必要な音が入るのを最低限に抑えられるマイクの最適な設置場所は、この指向性によって変わるのです。
指向性には大きく分けて、3つあります。
単一指向性
マイクを向けた方向に強い感度を持ち、
他からの回り込みの音を抑える。
無指向性
どの方向からの音にも同じ感度を持つ。
双指向性
マイクの表と裏で同じ感度を持つ。
知ってるとちょっと便利 PART16 ~マイクって実は繊細~
マイクを使用したとき、「ぴ~~~~!」とか「ぶ~~~~ん!」みたいな不快な音を聞いたことがありませんか?
ご存じの方も多いかと思いますが、ハウリングといいます。
マイクで拾った音がスピーカーから出て、その音をまたマイクが拾うことにより信号がループされることで発生します。
例えば、マイクが口元から遠い場合にミキサーで音量を必要以上に上げなければならなくなった時や、スピーカーに近づきたときなどです。
また、こちらはあまり知られていませんが、マイクを手で覆うようにしても起こります。
このハウリングをいかに発生させないか・・・マイクやスピーカーの置き位置を考えたり、ミキサーを使って調整するのは、音響技術者の腕の見せ所の1つです。
本番前に何度も、マイク1つ1つ、スピーカー1台1台の音のチェックをしているのはそのためです。
! マイクは精密機器です!
マイクのテストをする時にマイクを叩いてはいけません!
また、強く息を吹きかけるのもいけません!
チェック、ワン・ツーという謎の言葉・・・
先ほど、音響技術者は、スピーカーやマイクの位置の調整を調整してハウリングを防いでいるとご説明しましたが、他にもイコライジングなどの電気的なチューニングによって「低い音〜高い音まで均一に聞こえる状態か」「音量や音圧感」など全体の音を調整していきます。
そこで使われているのが「チェック・ワン・ツー」という謎の言葉です。
実はこの「チェック・ワン・ツー」・・・さまざまな発音が含まれていて、その言葉を使いスピーカーやマイクの音の調整をしているのです!
■ チェック = 硬い音と高音のチェック
周波数で言う2kHz〜4kHzあたりのハウリングポイントのチェックとして発音することが多いです。
「ピー」とハウリングする部分がないかをチェックします。
■ ワン = 低音と音量(大きい音)のチェック
「ワン」と発音する際に周波数で言う100Hz〜300Hzあたりのチェックです。
また音量が自然と突出するので、他の音より大きすぎないかのバランスをチェックします。
■ ツー(トゥー)= さらに高音と音量(小さい音)のチェック
4kHz〜8kHzあたりのハウリングポイントチェックとして発音することが多いです。
「キーン」とハウリングする部分がないか、小さい音でも会場に聞こえているかをチェックします。
「チェッ」や「ツー」など特定のフレーズを繰り返し発声する場合もあります。
このように「チェック・ワン・ツー」は調整したい周波数をほぼ全部調整できる、魔法の言葉なのです!!
さて、今回は舞台音響についてご紹介しました。
次回も引き続き、舞台音響の「ミキサー」や「スピーカー」についてご紹介します!
お楽しみに!