劇場便利帳PART17からです。
ここからは劇場で使用される舞台音響について解説します。
劇場便利帳 第5章
今さら聞けない・・・舞台音響のあれこれ その1
舞台スタッフは、その仕事内容によって、呼ばれ方が変わります。
例えば舞台音響スタッフだと・・・
1 音のプランニング、デザインの作業をする人(プランナー・デザイナー)
2 本番中に機材を操作する人(オペレーター)
3 音の響きや音響機材の管理、プランナーの技術面の補助を行う人(エンジニア)
こんな風に呼び分けられてます。
サウンドデザイナー・・・音をデザインするなんて、ちょっとかっこいい響きですよね!
プランナーは音を入れるタイミング、入れ方、流している最中の音量、音質、音像、消し方を決めるのが仕事ですが、
使用する音の加工・編集、音像定位、移動など、技術的な知識も必要です。
それを助けるのがオペレーターやエンジニアのお仕事です。
PAさんと呼ばれるのは、このオペレーターやエンジニアにあたります。
また、舞台音響と舞台照明はコミュニケーションを取り、連携する必要が多いんですよ!
知ってるとちょっと便利 PART17 ~音響って他にどんなものが必要?~
ミキサー
まず、欠かせないのがミキサーです。ミキサーとはいわゆる音響調整卓のことです。
その名の通り、音声をミックスして、スピーカーや録音機器に音を振り分けて送る装置・・・ですが「そもそも音を混ぜるってななに?」と思いませんか?
と、いうわけでここで具体的にお話しようと思います。
ミキサーはマイクやらCDプレイヤーやらたくさんの機材を接続できます。例えば、マイクを5本、CDプレイヤーを2台とかでも接続できるのです。
ミキサーにはチャンネルという音を入力する入り口が”いくつも”あって、そのそれぞれのチャンネルから「入力された音」を「ミックス」して
2チャンネルの信号(LRのステレオ信号)にして出力するというのが、ざっくりとした仕組みです。(ミキサーにより音声が入力(インプット)できる数や送り出し(アウトプット)できる数が変わります。
「音を混ぜる」というより「音を1つにまとめる」というイメージですね。
ミキサーのすごいところはそれだけでなく、それぞれの機材に対してさまざまな要素の調整を行えるところです。
それぞれのチャンネルのボリューム(音量)を調整できるので、ちょうど良いバランスにして、全部を一つの音にしてスピーカーから出す事ができます。
パワーアンプ
ミキサーで適切な音量や音質に調整された信号を、スピーカーが駆動できるレベルまで電気で音声信号を増幅させてスピーカーに送り出し音を鳴らすための機材です。
鳴らすスピーカーに合わせて出力などの性能が選ばれます。
アンプにも以下のような種類があります。
(1) パワーアンプ単体タイプ
一般的なパワーアンプです。
ミキサーから来た信号を増幅してスピーカーを鳴らす、もっとも基本的なタイプです。
右写真のようにラックなどに集約して設置できるので、比較的大掛かりなPAシステムを組みやすいのが特徴です。
劇場で使用される最も一般的なアンプですね!
(2) パワードミキサータイプ(パワーアンプ内蔵ミキサー)
ミキサーにパワーアンプを内蔵しているタイプです。
ミキサーとパワーアンプが一体化しているので、電源供給が一箇所で済み、さらに単体タイプと比べると接続が少くて済むのも特徴です。
(3) パワードスピーカー(パワーアンプ内蔵スピーカー)
スピーカーにパワーアンプを内蔵しているタイプです。
スピーカーに特化した専用のパワーアンプを内蔵しているので、スピーカーとパワーアンプの相性は抜群で、スピーカーの性能をフルに発揮できます。
ギターアンプなどがこれにあたりますね!
手軽になるべくシンプルにということであれば、接続が少なくて済むパワードミキサーやパワードスピーカーが候補にあがります。
現場によってスピーカーを変えたり、増設したりするという場合には、単独タイプにすると比較的自由度が高くなります。
知ってるとちょっと便利 PART18 ~劇場には実はスピーカーがいっぱい!~
音響設備の中でもスピーカーは、いちばん身近な存在かもしれません。
スピーカーはオーディオにおける音の出口といったところです。
CDなどに収録された音楽の信号がアンプを通った後で、最終的に耳で聴くことができるように空気の振動にする大切な役割を果たす装置です。
もちろん、劇場のような大きな空間では、1箇所のスピーカなんかではとても足りません。
様々な場所に、それぞれの役割を持ったスピーカーが隠れています。
くすのきホールを例に紹介していきましょう!
プロセニアムスピーカー
舞台を額縁のように区切る構造をプロセニアムアーチといい、そのアーチ上部に取り付けられたスピーカー。
サランネットが張られているので直接スピーカーを見ることはできませんが
くすのきホールは超低音用、遠距離用、中距離用、近距離用と合計6台のスピーカーが設置されています。
スピーカーから各客席への距離差が少ないため、客席内の均一な音場を得ることに重要な役割を果たします。
客席向けに設置する大きいスピーカー。
モニタースピーカー(はね返りスピーカー)
舞台上にいる人に向けて出すスピーカー。モニタースピーカーの一種。頭より上部に設置して全体に聞こえるようにしたり、1人または2人に聞こえるように置いたりする。
モニタースピーカー(フットスピーカー)
モニタースピーカーを足元に置くと、コロガシまたはフットと呼びます。
インフィルスピーカー
インフィルスピーカーの役割は、ずばり「抜けを補う!」です。
スピーカーにも「指向性」があり、スピーカーに近くても指向性から外れていると音が聞こえにくくなるため、客席最前列中央席辺りはメインのスピーカーでは音があまり聞こえない場合があります。
「中抜け」ともいう、そういった隙間を狙うスピーカーがインフィルスピーカーです!
くすのきホールのステージスピーカーをよく見てみてください。
内側にちょこんと、小さなスピーカーがあります。
くすのきホールの客席前方中央が中抜けエリアになってしまうため、その場所に向けた小さめのスピーカーを設置してカバーしているのです。
ひょこっと顔を覗かしていて・・・ちょっとかわいいです。
今さら聞けない・・・舞台音響のあれこれ その2
スピーカーの再生方法などで見かけるモノラル、ステレオ・・・聞き覚えのある言葉ですが、具体的にどう違うのでしょう?
なんとなくわかるけど・・・そういう方多いんじゃないでしょうか?
結論:モノラルは1つのスピーカー、ステレオは2つのスピーカーで再生
モノラルは音声を1個のマイクで録音する方法、あるいは1個のスピーカーで再生する方法のことをいいます。
ステレオは音声を2つ以上のマイクで録音する方法、あるいは2つ以上のスピーカーから再生する方法のことをいいます。
スピーカーの数の違いによりステレオの方がモノラルに比べ音を立体的に聞きとることができ、臨場感が増します。
いやいや、もっと詳しく!という方に・・・。
モノ(モノラル)
1つまたは複数のスピーカーから同じ音声を出す方式。
スマホや iPhone などで録音する場合は、マイクが一つなので、モノラルということですね。
1960年代にステレオが誕生するまでは、モノラルが一般的な録音再生技術でした。
モノラルはスピーカーが1つなため、左右のイヤホンからは全く同じ音源が再生されます。
そのためステレオに比べると音を立体的に捉えられず、やや平面的で音の広がりを感じづらく、左右2つにスピーカーを置いても、モノラルだと音の広がりが感じられません。
しかし、モノラルの音ならではの良いところもあります。
例えば、モノラルレコードなどを聴くとき・・・再生する時もモノラルの機器を使います。
すべての音が1つの真ん中に集まっているので、ステレオの臨場感とはまた違った迫力や懐かしさを感じることができます。
また、モノラルの音は長時間聴いてもあまり耳が疲れないとも言われます。
録音や再生方法の違いが、音の印象を大きく変えるのですね。
ちなみにですが、講演など、もともと音源の位置が一つの場合にも、あえてモノラルになっていることもあります。
ステレオ
Stereophonicステレオフォニックの略であり、左右2つのスピーカーで違う音声を出す方式。
ステレオとは立体音響という意味があり、2つ以上のスピーカから、それぞれ違う音が出るので、テレビやラジオ、オーディオなどで再生すると立体感や臨場感のある音を出すことができます。
左右の耳から感じ取る音量差や音のバランスの違いで音源の方向性や臨場感を得られ、この臨場感がステレオの持ち味だと言えます!
また、実用的なシーンにおいては、例えば大人数での会議の録音をする場合など・・・ボイスレコーダーで会議の様子を録音をしたものを聞いたらやりとりが聞き取りにくかった、なんていう経験はありませんか?
それはモノラル録音で録音していたためかもしれません。
ステレオ録音では、2本以上のマイクで録音するため、音源からの時間差も録音されるため、話者それぞれの座席の位置や、声や話し方の特徴も聞き取りやすくなります。
知ってるとちょっと便利 PART19 ~サラウンドシステムって?~
サラウンドシステムとは・・・よく耳にするのは、5.1ch(ごーてんいちチャンネル)サラウンドシステムだと思います。
前方左、前方センター、前方右、後ろ左サイド、後ろ右サイドの5つの方向にサブウーファー(超低音)=.1を足したものを指します。
前からも後ろからも音に囲まれる音場を体感でき、音が前から後ろ(または逆)に移動する感覚も楽しめます。 映画の上映にも使われる くすのきホールですが、7.1チャンネル サラウンドシステムが備わっています。
前方左、前方センター、前方右、左サイド、右サイド、後ろ左サイド、後ろ右サイドの7方向とサブウーファーに分かれた音に囲まれ、より臨場感を感じられます。
くすのきホールサラウンド
スクリーンを…
上げると…
スピーカーが!!
くすのきホールのスクリーンは音を通すために穴が空いているので、映画館のようにスピーカーが後ろに置いてあります!!
正面から見ると・・・
客席側にもあります!
今さら聞けない・・・舞台音響のあれこれ その3
さて、音響編もいよいよ終盤になってきました。
最後に「音につける効果」をご紹介する前に、音について、ちょっと確認しておきましょう。
『音』の性質には、
・速さがある
・壁などに反射する
というものがあります。
音の速さは時速 約1225km。1秒では 約344m進みます。
花火を見ていて、花火が開いた瞬間よりも後に「ドーン」と音が鳴りますよね。
雷が鳴った場合にも、稲妻が光ってからゴロゴロと音がなるまでに少し時間があります。
雷が光ってから3秒後にゴロゴロと鳴ったら3×344m=1032mとなり
雷は約1km先で起こったと計算できます。
次に音の反射です。
やまびこという現象を知っていますか?
山登りをした際に山頂から向かいの山に向かって
『やっほー』 と叫ぶと、『やっほー』・・・『やっほー』・・・『やっほー』・・・と、返事が返ってきます。
これは『やっほー』という音が向かいの山に当たって跳ね返ってくるために起こります。
音が反射しているからなのです。
やまびこは返ってきた音が小さくなりながら一定間隔で遅れて繰り返し聞こえる現象を指します。
向かいの山が遠いほど、返事が帰ってくるまでに時間がかかります。
この2つの特徴をふまえて「音につける効果」をご紹介しましょう!
知ってるとちょっと便利 PART20 ~音に効果って?~
カラオケやコンサート・ライブのヴォーカルなどはマイクで音を大きくするだけではなく、機械的に声を響かせて広がりと深みを付けています。
いわゆる、エコーというものです。
エコーが付いていると気持ちよく歌えますよね。
そのエコー効果に関する用語を紹介いたします。
リヴァーブ(Reverb)
お風呂場で歌うと、声が響いて聞こえてくる事があります。
これは壁に反射した音がいくつも重なって聞こえ、その音が徐々に消えていく、残響というものです。
この残響を機械的に付けることを [リヴァーブをかける]と言います。
カラオケのマイクで歌うと、響きが付いて聞こえているのは[リヴァーブがかかっている]からなのです。
場所・楽器・ジャンルによってリヴァーブの長さや量を調整しています。
ディレイ(Delay)
遅らせるという意味です。そのままの意味の通り、音を遅らせる効果になります。
リヴァーブをかける際に、最初に聞こえる反射音(上の図の「初期反射音」)がどの程度遅れているかで空間の広がりを演出します。
例えば小さなライブハウスでは反射する壁が近いので反射音は早く聞こえ、大きなホールでは反射する壁が遠いので遅く聞こえます。
おわりに
さて、劇場の「なぜ?」「なに?」「こうしたい!」に少しでもお役に立てるように始めた「劇場便利帳」も今回で最終回です。
なかなか長いホームページ企画となりましたが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
日頃ご利用いただいている方の・・・これからご利用いただく方の少しでもお役に立てれば幸いです。
まずは劇場に興味を持ってもらうこと・・・それが身近で利用しやすい劇場の一歩だと思っています。
劇場はまだまだ奥が深いです。
やれること、できることは無限大。
皆様の「こうしたい!」に寄り添えるよう、私たちスタッフは日々機器のメンテナンスをし、技術を磨き、劇場でお待ちしています!
ご利用の際は是非、分からないこと、やってみたいこと・・・電話や舞台打合せでご相談ください!