バストリオ
黒木麻衣さん(俳優・空間美術)、今野裕一郎さん(作・演出・俳優)、坂藤加菜さん(俳優・ダンサー)、中條 玲さん(俳優)、橋本和加子さん(俳優)※以上バストリオ所属
松本一哉さん(俳優・演奏)、本藤美咲さん(俳優・演奏)
第14回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(1) グランプリ・オーディエンス賞・俳優賞 バストリオ
橋本和加子(以下「橋本」) 演劇のコンクールということだったので、やはりいわゆる「演劇」というところで審査される心持ちで挑みました。私たちバストリオの作品は、果たして演劇なのかと言われることが多かったので、出場した時にどう評価されるのかは挑戦でした。はじめは、受賞することは難しいかなと私は思っていたのですが、審査員の方々がちゃんと観ていてくれていたのだと今は感じています。戯曲のみの審査ではなく、上演という形でのコンクールがあるのはいいなと思いました。
橋本 時間制限です。大変と思いながらも、時間内でどれだけ出来るのかということは楽しかったですね。コンクールの運営の人たちがすごいなと思います。私だったら絶対やりたくない(笑)
本藤美咲(以下「本藤」) 高校時代の吹奏楽のコンクールを思い出しました。セッティングを制限時間以内に収める練習をするのも。限られた中でどれだけのことができるのかを考えるという楽しさは近年なかったので、良い機会をいただきました。学校を卒業してからはホールや劇場を使える機会は多くなく、劇場スタッフの方と一緒に作業できたことは何より嬉しかったです。
中條 玲(以下「中條」) 今野・橋本とはM-1に出るような気持ちでと話していて、僕個人としては明確に賞を獲りに行くつもりでいました。結果的に賞をいっぱいもらえて嬉しいです。評価されるのが上演(作品)のみではないことや、作品のジャンルも形態も全然違うものが並んで審査されるというのはどういうことなんだろうとか、考える機会になったという意味でも出て良かったと思いました。俳優賞が出演者全員と発表された瞬間が客席で一番盛り上がったんですけど、本来は個人に出すものとして用意されていたものが集団を評価するものとして審査員の方が使ってくれたというのは大きな判断だろうと思いました。その思いも嬉しかったです。
松本さん、どうですか?音楽家でありながら俳優賞をもらったわけですが。
松本一哉(以下「松本」) 役作りへのこだわりの質問まで黙っておこうと思っていたのですが……。(一同笑い)
僕は演劇の人間ではなく、何も分かっていない中で声をかけていただいて。誘っていただいたからには絶対グランプリを獲ろうと秘めてはいました。けれど、ただただ、嬉しかったですね。初めてバストリオの公演に出てからちょうど10年経ちますが、面白いものをつくるというのは関わる人たちみんなが知っている。けれど、もっと面白いことするためには多少知名度が必要というか。恩着せがましい言い方になるかもしれませんが、なにか力になれたらいいなと個人的に思ってやって来ていました。こうして結果が出せたというのが、ちょっと言葉にならないですね。ただただ嬉しいとしか。
バストリオという存在を、演劇の世界でやってきた人たちがしっかり評価してくれたというのもすごく嬉しかったです。(バストリオの)彼らがやってきたことが、しっかりこういう形で賞を獲り、結果として残ったことも。
坂藤加菜(以下「坂藤」) 私は今回コンクールに出すにあたって、具体的にこうしようというのはなくて、いつも通り作品の発表のために稽古をして本番をやりました。でも仕込みとバラシを時間内にヘルメットをかぶってやらないといけないということはゲームみたいでしたね。顔中粉だらけのままバラシして、劇場の方に「劇場のものには触らないでください」って言われたりして、すみませんって思いながらやりました。……何でしたっけ?受賞のことですよね。嬉しかったです。審査員ひとりひとりが、一回観ただけでこんなに分かってくれるんだって。うわあ、ありがとうと思っていました。自分が獲ったというよりはバストリオが獲ったという感じなので。良かったです。
黒木麻衣(以下「黒木」) みんなと同じくとても嬉しかったです。このコンクールに出るにあたって信頼する人に話したんですね。コンクールに出て、今回はみんなで賞を獲りに臨むんだって。その時に、媚びずにやればいいとその人に言われたのが印象に残っています。お客さんや審査員にどう見えるかとかは気になるけど、自分たちがやってきたことをどういう風にそのままで見せられるのかは意識していました。ただコンクールとして制約のある中での上演だし、最初は野外劇として上演された作品だったから、空間の使い方など、課題が多かったです。その中でそれぞれの課題にそれぞれのメンバーが取り組んでできたのが、実際に上演した40分だなと思っています。今回はメンバーみんながレベルアップできて、グルーヴも更に深まった上演だったという印象です。
黒木 普段の公演でも、受付やお客さん案内などは全部自分たちでやっていて。それは変えずにやりました。コンクールのルールでダメだったらやめないとと思っていたんですけど、運営の方もあたたかく見守ってくれていて。会場のお客さんの拍手もとても温かったですね。
松本 今回の役柄は大変だったので、身体づくりからだったんですけど、やっぱり10キロの減量は大変でしたね。…冗談です。
作品創りについて、音のことはすごく言いますね、今野くんは。演奏の音とかだけじゃなくて、一言一言のニュアンスなどを昔から口酸っぱく言いますね。タイミングだったり、僕個人だと(ドラムなどの)音量が少しでも大きくなると、「ここは他の役者さんたちの声が聞きづらくなっているんで、音量下げてください」とか「音数減らしてください」など言われますね。僕も気をつけるようにしています。
橋本 そうですね、音に関してはすごくこだわりがあると思います。「セザンヌによろしく!」は今回のコンクールで初めて上演したわけではなく、兵庫県豊岡市の神鍋山で「セザンヌの神鍋山」という野外劇が最初でした。その後に、北海道の斜里岳で「セザンヌの斜里岳」を上演し、この2回の上演を経てせんがわ劇場演劇コンクールでやったというのが私としては大きかったと思っています。メンバー全員が出るというのは今回が初めてでした。豊岡での初演のときは黒木さんと坂藤さんは出ていなくて、斜里岳のときは前日に私が体調を崩してしまって出られなくなってしまって。そのときは急遽みんなで会議して、メンバー全員が上演をやろうって言ってくれました。黒木さんと坂藤さんが私の役をやって無事に上演できた、という経緯があったんですね。その時は斜里町でみんな同じ寮に泊まっていたんですけど、体調の悪い私は横になりながら会話を聞いていて、ごめーんと思いながらも、なんて頼りになるんだろう、この人たちすごいなと思いました。中止になるかもしれないところから、それでもやると決めて上演できたことは、今回のコンクールでの評価に繋がる何かだったのかもしれません。
橋本 本当にそうですね。
本藤 舞台作品は日々変化するもので、それこそ発話ひとつ取っても「生きているもの」を作っているんだという実感があります。事前にしっかり作り込むわけですが、結局その場でつくっているという感覚です。一周回って、めちゃめちゃライブしていると感じます。
中條 作品をつくる時間でない部分がすごく大事です。特に今回の座組は去年の夏に上演したことも繋がっているし、今の日本じゃない場所で起きていることも自然に入って来ていて、そういうことが改めて考えるとすごいことだなと感じます。専門審査員の古川さんが、舞台上にこっち側(客席側)の時間が流れている、と仰ってたことがとても嬉しかったです。
今回、自分がやっていたことは難しくて。ずっと(役を)掴みきれなかったし。分からないことがあるということに結構向き合っていたなと思います。今野さんの書いたテキストをどうやって引き受けるか、トライでしたね。
中條 僕は俳優と名乗らないようにしています。名乗るときは、舞台に出たり制作スタッフをやったりしている、と言っています。
橋本 私は俳優と言っています。
坂藤 私はそこまでこだわりないですけど、自分で俳優と言ったことはないです。最初はダンサーと名乗っていましたけど、これだけやる、と決めたことはないですね。
橋本 私は器用じゃないので、(バストリオも他の劇団でも)全部同じスタイルでいきます。
中條 僕も分けてはいないです。バストリオでやっていることをどうやって持ち込むかということを常に考えてはいるんですけど、それが難しいんですよね。でも諦めたくない、絶対にいけるはずと思ってやっているところはあります。丸ごとはいけなくても、染み出していくことはできるだろうなと。
中條 フルスペックで「セザンヌによろしく!」をやろうと話しています。
中條 今回はせんがわ劇場を使う上で制限がありましたが、受賞記念公演ならば普段だったらしないような使い方も考えられるので。あとは稽古途中で90分くらいの台本ができたんですよ。それをやろうかと楽しみにしています。一回読んだらとても面白かったので。あと、個人的には公共劇場とのやりとりや、手の取り合い方を模索することも楽しみですね。
橋本 (調布の)街の人たちにたくさん来て欲しいですね、せっかくなので。
松本 そうですね。
中條 今回は(作品を上演した場所は)ホールの中だけでしたけど、それ以外も使いたいですね。
本藤 私は以前ジャズアートせんがわに出させていただいたので、せんがわ劇場はそのイメージでした。今回のコンクールでは、新しいせんがわ劇場が見られました。
松本 僕もダンスカンパニーの公演でせんがわ劇場に出演したことがありました。おそらく2012年くらい。
橋本 7月11日(木)〜15日(日)に中野の水性という元クリーニング屋さんだった場所で公演があります。(http://busstrio.com/newstreetdog)※終了
また8月17日(土)〜9月1日(日)にも北海道、知床の斜里町という場所で、葦の芸術原野祭(https://ashigei-artfes.studio.site)でも公演をします。本藤さんと松本さんのライブや、美術作品の展示、飲食もある芸術祭です。
インタビュー・文 一宮周平(第14回演劇コンクール運営チーム)