終のすみか
坂本奈央さん(作・演出)、高橋あずささん(出演)
第13回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(2) オーディエンス賞 終のすみか
坂本 コンクールへの参加自体初めてで、いつもどおりというより「コンクール」に向けて制作をした感じが実感として残りました。一番意識したのは、届きやすさです。今までやってきたなかでどうしても、手応えがなかったり、自分が届けたいものが届いていない、わかりにくいまま終わってしまっているという感覚があって、じゃあ1回わかりやすくやってみようと思ってつくりました。
高橋 「場所がすごく広いな」と感じて、コンクールというより、劇場で上演する公演として、どう伝えるかを考えました。
坂本 普段はギャラリーやカフェスペースでやることが多かったので、今回のように客席と舞台が分かれている空間は初めてでした。
劇場でのテクリハで、広いな、遠いなと危機感を抱いて(笑)本番までの2日間で調整しました。想定はしていたんですが、実際やってみてやっぱりそうなんだって。
坂本 「ソファを(客席から見て)後ろ向きに置く」というアイディアは初めのうちに思いつきました。自分でもいいなという感覚でしたが、アフター・ディスカッションでも言及されて、他の人も「おっ」て感じるんだと思いました。稽古の段階ではそんなに違和感はなく、これがそんなに注目されるものとは思っていなかったんです。
作品的にも、部屋の中で2人きりで話すという集中した空間だし、会話も日常会話でポンポン続くので、顔が見えなくてもどういう感情でいるかは、あえて想像しなくてもわかる。むしろ見えないことで、観客に想像させるようにもできるなと思って、あの置き方にしました。
あと正面を切るのが恥ずかしいというのもあって(笑)、私も恥ずかしいし、お客さんも恥ずかしいというか……それなら後ろ向いて喋っていると見やすいのかな、と……高橋さん、役者としてはどうでしたか?
高橋 劇中でそのソファの前に出る時、エリアを越えるというか、領域を踏み越えるような感覚がして、緊張感がすごかったんです(笑)。特別に意識はしていなかったのですが、ソファを隔てていたり、客席に対して後ろ向きで演技をすることで、安心感はあったかもしれません。
坂本 過去のファイナリストの方がスタッフとして密に関係をもってくださるのが面白いなと思いました。
劇場というハードが、5つの作品というソフトを両立させて、短時間で上演するということは、実際すごく大変だと思うんですよね。演劇は、生身の人間がやるという危険性がある芸術なので、安全面とかでいろんなレギュレーションがあると思うんですけど、そのなかでいろいろ相談に乗ったり、こちらに寄り添ってくださって、やさしいなと思いました。
高橋 一般審査員の方が時間をかけて選んでくださった、まずその時間が嬉しかったです。さらに投票数が一番多かったということで……時間の流れの共有みたいなことができたらいいな、伝わればいいなと思ってやっていたので、それが返ってきた感じがよかったなと思います。
坂本 届きやすいように、わかりやすいようにと意識してやったので、目に見える形で返ってきたという嬉しさはあります。
一方で、ポストドラマ的な、ドラマ性ではないところで勝負する作品の尊さも感じていて……私も以前、ドラマ性がそこまで強くないものを作ったりもしていたのですが、今回はコンクールを指標にして作品を制作したので、観客の皆さんが身近に感じられたのかなとも思います。
今回は、決められた尺の中で一つの作品として完成させたいという気持ちがあって、ドラマ性や伏線の繋がりを意識しました。
高橋 観客に対して説教くさくならないようにしています。ステージ上での時間の流れを、例えるならばスポンジに水をじわじわと浸透させるように、じっくり慎重に観客へ共有するように意識しています。また、坂本さんから稽古のなかで、空気から喋ってくれと言われたことがありました。「私」でなく「空気」から喋ることで、自分のためだけに言葉を使うことがBは苦手だったのかと気が付きました。いつも役作りのときに、自分じゃないと共感できない部分を探したり、どうして私が演じるのかという根源的なことを考えたりするのですが、今回はそこにBとの繋がりを感じました。あと、文字にかかれていない部分や行間の部分という「空気」に重心を置いた台詞が、実は台本には書かれていたんだなと気づきました。
坂本 私もうまく言語化できてはないんですけど、最初から(役名に)ABとか数字とかを用いることが多いです。名前で書いてみようとした時もあったんですが。やはり個人に縛られたくないというか、こういうこと皆さんもあるよね、と普遍的なこととして共有したい思いが無意識的にあるのかもしれません。
男女というのも、二項対立感がどうしてもまだある気がしてしまうんです。人間だしもっと同じなんじゃないかなあと。こういう感覚は結構前からあって、武田さんと高橋さんと以前やった作品でも男女を入れ替えたり、大学の時にはシェイクスピアを15人くらいで役を交換しながら演じたりしていました。
坂本 コンクールでつくった作品は、あの尺の二人芝居、というところで完成しているので、また新たに、劇場でやる公演としてきちんといろいろ考えてみようかなと思っています。
普段の動員の数倍になるので、客席をどう埋めるか、どう戦っていこうかという部分も大きいかもしれません。もちろん実験的な、劇場でなにができるかというのもあります。広い劇場を使わせてもらえる機会なので、団体としてキャリアアップできるようにしたいなと思います。
高橋 俳優として関わると思うので尽力できるよう力を蓄えたいです。あと(グランプリの)野らぼうさんも来年公演されるんですよね。それが楽しみですし、今後の関わりとして、今回関わった方々とも繋がる来年になったらと思います。
坂本 DEL(※)はどんな感じなんだろうと思っています。子どもたちとか、どういう人たちと関われるのか。私はやっぱり演劇って基本的に自分のためでしかないと思うので、それをどう地域に還元していくのか、まだわからないので興味があります。
高橋 私もDELの認定プログラムに参加したいなと思っています。子どもたちにもなにか刺激になれば良いなと思うし、自分が関わるなかで自分の存在が未来に繋がっていったら、こんなに嬉しいことはないと思います。
坂本 10月に公演を行うので準備をしています。
今回ファイナリストとして参加させてもらったことは、単純に後ろ盾というか自信みたいなものに繋がりました。これが一番重要かもしれません。今までは声を掛けたことがないような人にお声掛けしてみたり、受賞公演前の公演として、私たちにとっては今までにないチャレンジの公演になると思います。この公演がどうなるかで、今後のやり方が変わってくるような気もしていて。
ファイナリストの中でも、多分動員的にうちが一番弱く規模が小さいと思うし、土台もしっかりしていないところで、スタート地点をこのコンクールで固めていただいた感じがしました
高橋 まず目の前の作品に尽力したいということと……いま、すごく辛い世の中だと思うんですけど、そんななかでも自分は演劇ができていて、ほかにもやってらっしゃる方もいて、恵まれているという感覚もあります。いろいろ知見を深めて、勉強をしてその色をねじ込むというか……混ぜあって良い作用が生まれればと思いながら、精進していきたいです。
坂本 持続可能な演劇が叫ばれていますけど、絶対に今必要だと感じています。自分の団体もそうなんですけど、どこも疲弊しまくっていて、解散する団体もあったりして、このままだと演劇がどんどん無くなってしまうのではという恐怖がすごくあります。自分だけで道を切り開けるとはまったく思っていないし、まだまだ力不足なんですけど、社会的にも時代に合ったやり方を、どうにか同世代の皆で見つけていこうという思いがあります。
※DEL……地域でアウトリーチ事業を行うワークショップ指導者を育成するため、せんがわ劇場が独自に始めたシステムで、ドラマ・エデュケーション・ラボ(Drama Education Lab)の略。概要はこちら
インタビュー・文 小林真梨恵(第13回演劇コンクール運営チーム)