第13回せんがわ劇場演劇コンクール受賞者インタビュー(4) 俳優賞 武田知久さん(終のすみか)
武田 ファイナリストの皆さんは、とにかくそれぞれの団体の色が豊かで、演劇という芸術の広さを見ることができて、とても有意義でした。また、審査が終わった後にアフター・ディスカッションで専門審査員や一般審査員の方と話すことができるというのがなかなかない機会なので、各団体がこれからの活動を考えるにあたって非常に価値があるんじゃないかと感じました。演劇コンクールが、歴史を重ねている証拠だなと新参者ながら思いました。
過去のファイナリストの方などが運営スタッフをなさっていて驚いたのですが、演劇に携わっていく人たちの繋がりを実感できてうれしかったです。もっとせんがわ劇場演劇コンクールが広がっていってほしいです
武田 そうですね、2人芝居でしたので、個人の賞というより、共演者の高橋さん、そして脚本・演出の坂本さんという終のすみかに引っ張ってもらい、いただいた賞だと認識しています。特に高橋さんの役どころはとても負担の大きい役だと思いましたので……例えば仮に、AとBを逆に配役されていたら僕は大変だっただろうなと。でも高橋さんの目とか言葉がとても確かだったので頼らせてもらって、このような結果につながったと思っています。
表彰式で、審査員の大石(将弘)さんに名前を呼ばれた時は本当にびっくりしました。ゲネプロなどで他の団体の上演を観ていて、いろんな方面で素晴らしい俳優さんがたくさん居て、自分には無いもの、できない事に対して「すごいな」と子どもみたいに思っていたので。
特に、私より若い方も多くいらっしゃって、そういう方々のこれからを大いにも応援したくなりました。
武田 同居していた人に散らかされて出て行かれた直後の深夜という特殊な状況だったのですが、それを自分の家だとか、そういう時間帯だと感じるのが大変でした。いきなり劇場に行ってできるのかなと心配だったんですけど、照明とか音響や空間、セットのソファや家具たちに助けられた気がしています。
あとは役が、架空の人物というよりは、今どこかに実際にいるかもしれない人という感じで。少しでも表面的になってしまうと、途端に観ている方が気づいてしまいますし、稽古で演出の坂本さんもそういう点を、すごく細かく指摘してくださったんですね。なので、稽古でもゲネプロでも本番でも一回一回違ったんですけど、少しでも観ている方に「隣にいるかもしれない人」の様に感じてもらえていたらいいなと思っています。あとはすごく疲れている人ですって坂本さんに言われたので、稽古中も本番もずっと疲れているのが肉体的にも精神的にもしんどかったです(笑)
武田 過去に2回、終のすみかさんの作品に出演したのですが、実は今回は一番書きこまれていました。なので、わかりやすいなと思ってうれしかったです(笑)。(他の作品との)取り組み方の違いとしては、どういうときにこの言葉が出るのかを想像することかもしれません。実際の出来事としてとらえてみて行間を探るというか、体の連続性のなかでどうしたらひょいとこの言葉が出るかとか…どの戯曲でもそうだと思うのですが、とくに終のすみかは、ちゃんと生活の感じがなければ成立しない気がします。なので、1人で過ごしている時間と誰かと一緒に過ごす時間の違いを意識したり、日常生活での自分の話し方を客観視したりするかもしれません。ごまかしがきかない分、今回もかなり緊張しました。ゲネプロの前には手がプルプル震えてました(笑)
武田 うーん……(熟考)、あたり前のことかもしれませんが、なにか少しでも新しいことを試しながら、取り組んでいくということですかね。いろんな外的なもの、風景とか、もしかしたら想像の風景かもしれないですが、そういうものから、何かを得ようとしたりとか。(共演の)俳優さんだったり、音楽だったりを聴くことをやっていかないといけないなあというのは日々思っています。全然まだまだというか、頑張りますという感じなんですけど。
武田 まだ僕も知らない事が多いのでこれから知っていきたいのですが、ひとつはDEL(※)が気になっています。演劇を知らない、携わったことのない人と関わっていくことってどんな感じなんだろう、とか。年齢に関わらずそういう人たちと触れ合ってみたいなあと思っています。
あとは、また何かしらの形でこのコンクールにもまた関われたらなと、これから出てくる団体さんが気になるこの頃です。
武田 今稽古中で、7月の終わりに本番があります。今回とはまた毛色が違う作品で、僕もちょっと変わった役どころで。でも、稽古しながら思うのは、結局は人なので根本的なところはまあそんなに変わらないな、ということかもしれません。それ以外にも、今年は舞台をいくつかやります。
俳優とひとくちに言っても、信じるものは各々違うと思います。自分の所属劇団からも、またもっと外のひろい世界で映画や演劇をしている人たちからも学んでいきたいです。
あとは、頭を固くせずに、何でもできるんだぞということを感じていきたいなと。今までできない!と思っていた事にちょっと頑張って取り組むとか、身体をつかうこととか、若いひとたちと何かをするとか…。そのためには、日常からアートやニュースに触れることが必要なので、なんとか…触手を伸ばそうとして過ごしています。
※DEL……地域でアウトリーチ事業を行うワークショップ指導者を育成するため、せんがわ劇場が独自に始めたシステムで、ドラマ・エデュケーション・ラボ(Drama Education Lab)の略。概要はこちら
インタビュー・文 小林真梨恵(第13回演劇コンクール運営チーム)