
『木島平のカロ』スペシャルトーク~小飯塚貴世江×上田実祐那×尾崎太郎×小笠原響~

せんがわ劇場芸術監督の小笠原響が演出する親と子のクリスマスシアター「木島平のカロ」。
俳優の小飯塚貴世江さんと上田実祐那さん、脚本を担当した尾崎太郎さん、そして小笠原響さんをお迎えし、作品の見どころをそれぞれの立場から語り合いました。
聞き手:(せんがわ劇場演劇ディレクター)
Q 「木島平のカロ」はどんなお話ですか?
尾崎太郎(以下「尾崎」) 仙川で友達とうまくいかなかった主人公の少年・真一が木島平村に引っ越し、木島平の子どもたちと「柱松子」というお祭りに取り組むお話です。仙川から来た真一はなかなか馴染めず、お祭りの練習もうまく入り込めませんが、徐々に木島平の子どもたちとの仲を縮めていきながら、最後には一緒に柱松子の本番に挑みます。
――柱松子はどんなお祭りでしょうか?
尾崎 柱松子というのは、五穀豊穣と天下泰平を祈って、2本の柱松に火をつけ、どちらが早く燃え出すかを競う祭りです。元々は修験道(しゅげんどう)から来ているそうです。作品のモデルになっているのは、木島平村南鴨地区の柱松子で、小学生だけでこの行事を行うことが特徴です。「天狗」や「おかめ」など仮面をつけて踊る役や、柱松に火をつける役、うちわで仰ぐ役がいますが、誰がどの役をするかは厳正なくじ引きで選びます。この行事が面白くて、これは脚本にできるんじゃないかなと思いました。
――チラシのイラストになっている「想像上の生き物」はどのように作品と関わってきますか?
小笠原響(以下「小笠原」) タイトルになっている「カロ」というのが想像上の生き物のことで、木島平の自然を象徴する登場人物です。主人公の真一は学校を移ったばかりで、同級生とも馴染めていないのに柱松子の主役をくじ引きで当ててしまいます。そんな時偶然カロと出会い、真一もちょっとずつ変わっていきます。
Q 親子向け作品として、子どもたちに伝えたいメッセージや演出上で意識することはありますか?
小笠原 私も幼少期に田舎に引っ越した経験があるんですが、今振り返ると田舎での成長体験はとても幸せな経験だったなと思っていて、移住を決心した親にも感謝しています。せんがわ劇場という空間に、木島平の魅力をぎゅっと詰め込んで、調布に住んでいる皆さんにも、田舎って素敵だな、楽しそうだな、と思ってもらえる舞台にしたいです。
Q 俳優のお二人は出演のオファーを受けたとき、どんなお気持ちでしたか?
小飯塚貴世江(以下「小飯塚」) よくぞ聞いてくださいました!実はこの想像上の生き物の役を20数年前からずっとやりたかったんですよ。まさかこの役ができるなんて!と飛び上がるほど嬉しかったです。
この生き物は何て鳴くんだろうということまで考えていたんですよ。何十年か越しに願いが叶って、本当にありがとうございますという気持ちです。
――上田さんはいかがですか?
上田実祐那(以下「上田」) 私は今年の春まで演劇の大学(桐朋学園芸術短期大学)に通っていました。演劇を続けていきたいけど、実際どうやって続けようかなと進路に悩んでいた時期に、せんがわ劇場で昨年の芸術監督公演の稽古期間に行われたワークショップに参加しました。そこで小笠原さんと出会い、ワークショップをきっかけに今回の出演のお声がけをいただきました。すごく嬉しかったです。
――その時に小笠原さんは見つけた!と思ったんですか?
小笠原 そう!才能あるなと思ってすぐに出演をお願いしました。
上田 頑張ります。すごく頑張ります。
Q 舞台となっている木島平村は調布市の姉妹都市であり、今年の8月に姉妹都市盟約40周年を迎えました。木島平に実際に足を運んだ方もいるそうですが、皆さんから見た木島平村の印象はいかがですか?
上田 すごくいいところでした。私は元々、自然や土着文化がとても好きで、お囃子をやった経験もあります。木島平のカロは自然の空気を想像できる脚本で、とてもワクワクしていたのですが、木島平は良い意味で想像通りの場所でした。見渡す限り緑で、田んぼがたくさんあって、この空気感がとても気持ちいいな、ずっとここにいたいなと思うような場所でした。
――特に印象に残っている場所はありますか?
上田 柱松子が行われる塚がある場所が印象的でした。実際にその場に立ってみると、風が吹くたびに木々の間からキラキラと光が差して、風の音や鳥の鳴き声が聞こえてきて、柱松子が行われる様子が鮮明に浮かび上がってくるように感じました。
尾崎 木島平の特徴は、山の上の方にブナの原生林(白樺)があること、そしてお米がおいしいことです。木島平は、一面の田んぼの中に丘がポコポコとあるような風景で、まるでナウシカの世界みたいなんです。都会も田舎もそれぞれにいいところあると思うのですが、木島平村には心の原風景だなって思うような景色が広がっています。
あと、木島平の方々は調布のことを姉妹都市としてとても愛着を持ってくださっています。誇張ではなく、調布市のことを知らない人は1人もいないんです。調布市に住んでいて、もしも自分には特に田舎がないという方でも、木島平に行ったら、木島平の人は調布から来たんだね!と温かく迎えてくれると思います。
小笠原 夏の時期に行きましたが、空気が澄んでいて過ごしやすかったし、気持ちよかったです。
田んぼが広がる耕作地帯に、弥生時代の古墳が点在していますが、その古墳から朝鮮半島で造られた国宝級の鉄剣が発見されているんです。伝説も多く素敵な歴史を持った土地なのだなと思いました。村に残された歴史を大切にしている土地柄が、柱松子というお祭りに行きついているんだなと感じました。
――都会に住む少年少女と、木島平などの人の少ない地域に住んでいる少年少女たちとの印象の違いはありますか?
小笠原 私が田舎に住んでいた時の同級生は、言葉遣いや遊び方も違いました。山へ行ったり、田んぼの畦道に入ったり、自然と一緒になって遊ぶことが多かった。今は時代も変わっていますが、毎日山並みを眺めて、その中で生きて学ぶと、違うものを得られるんじゃないかなって思いますね。先ほど木島平の景色は心の原風景という話もありましたが、東京に住む私たちも木島平のような土地の空気や自然に触れることで、自分をリセットして本来の自分を取り戻していくことが大事だなと思います。
Q それぞれの立場で注目ポイント(見どころ)を教えてください。
小飯塚 私は台本を読んで、2度ほど台本を涙で濡らしそうになりました。尾崎さんの作品はよく想像されるような展開にいかないんですよ。ここでシーンが変わっていくんだっていう意外性があって、そこに小笠原さんの演出が入ったらどんな風になるんだろうと私自身も楽しみでワクワクしています!
上田 私が演じる真一は作品の中で、友達関係や家族の絆、そして想像上の生き物を通して自然と向き合っていきます。多感な時期に色んなものと関わりながら成長していく真一の姿を、ぜひ親子で見てもらいたいです。
尾崎 主人公の真一は仙川から木島平に移り、これまでの生活では出会わなかった新しいものとたくさん出会っていきます。皆さんも主人公の姿に自分を重ね合わせて、自分の生活範囲から一歩出ると、違うものと出会いがあり、それと仲良くしたり、喧嘩したり、なんか一緒に何かをやれる可能性があるんだなということを見て、楽しんで、感じていただければと思います。
台本を作る過程で、桒原さんのアドバイスから「くとぷて」という架空の遊びをつくりました。劇中で小飯塚さんと上田さんが行う遊びなのですが、それを舞台上でどういう風にやられるのかがすごく楽しみです。
小笠原 毎年クリスマスの時期に実施している親と子のクリスマスシアターでは、これまで『ヘンゼルとグレーテル』や『オズの魔法使い』など、既成の童話をベースに作品を創り上演してきましたが、今回は尾崎さんに脚本をお願いして0から作品を創っています。親子向けの作品をせんがわ劇場から発信することは、自分にとっても新しい挑戦です。素晴らしいスタッフと最高に面白いキャストを結集して、これから稽古をしていきます。まずは、どうやってこの想像上の生き物像を創り上げるかが勝負ですね。心温まるストーリーをぜひお楽しみください。
臨場感たっぷり”超贅沢空間”のせんがわ劇場で、皆様のご来場をお待ちしております。

【「木島平のカロ」のチケットの発売日はアートプラス会員:11月5日(水)、一般:11月7日(金)から】
客席数が少ないため、お早めにご予約ください。
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