
『ピギーバック』スペシャルトーク ~細川洋平(脚本)×生田みゆき(演出)×小笠原響(せんがわ劇場芸術監督)~

せんがわ劇場にて3月に上演する せんがわディレクターズセレクション『ピギーバック』。
脚本が完成したばかりの2025年12月中旬、細川洋平さんと生田みゆきさんをせんがわ劇場にお招きし、芸術監督である小笠原響も交えてお話をうかがいました。俳優たちとの創作開始を前に、作品について深掘りするスペシャルトークをお届けします。
Q 今回の企画「せんがわディレクターズセレクション」とは?
小笠原響(以下「小笠原」) せんがわ劇場にはDEL(デル)という、主にせんがわ劇場演劇コンクールの出身者で構成されている舞台芸術家グループがあります。これが劇場運営の大きな特色になっているんですね。そのなかから選ばれたディレクターチーム(※佐川大輔、柏木俊彦、桒原秀一、櫻井拓見)が中心になって企画して、DELのメンバーと第一線で活躍する外部の演出家や脚本家――今回は生田さんですね――をお呼びして、刺激のある環境のなかでコラボレーションするせんがわ劇場ならではの企画です。DELのメンバーも活躍の場が広がることが期待され、第一弾としてDELメンバーの細川さんが脚本を担当する『ピギーバック』を上演します。
細川さんは演劇コンクールの出場は第11回目でしたっけ?
細川洋平(以下「細川」) はい。
小笠原 第11回せんがわ劇場演劇コンクール(2021年)でグランプリを受賞された「ほろびて」というカンパニーの主宰であり、脚本と演出をなさっていた細川さんに、今回は脚本を書いていただきます。そして演出は文学座・理性的な変人たち所属の生田さんにお願いしました。
生田みゆき(以下「生田」) 嬉しいです。
小笠原 嵐を巻き起こしていただくということで(笑)
生田 起こせるかな(笑)
――ディレクターチームと細川さんで相談して、生田さんにお願いすることが決まりました。
生田 たまたまなんですけど、別の劇場の企画で書き下ろしの作品をつくるお話があって、ある評論家の方に「私と合いそうな劇作家で思いつく方はいらっしゃいますか?」と聞いたら、パパッと5人くらいお名前を挙げてくださって、その中に細川さんのお名前があったんです。その1か月後くらいにこのお話をいただいて、わおって。
小笠原 すごい。
――一見、違う作風でありながら、同じ問題意識を持っているようにも見えるお二人ですが、お互いの印象はどのようなものでしたか?
生田 いわゆる表現の方法論は違いますが、テーマとして取り扱っているものには、「わかるわかる!」みたいなところがありました。
細川 僕も生田さんの演出作品を拝見していて、お互いにアウトプットするものは違っていても、問題意識は近いものを感じていました。なので、今回の作品もシンクロするようなものになるのではないかなと思ってます。
小笠原 楽しみですね。

Q 小笠原さんから見た、細川さんと生田さんの印象は?
小笠原 細川さんのカンパニー「ほろびて」がせんがわ劇場のコンクールでグランプリを受賞した『あるこくはく』という作品、すごくおもしろかったです。「娘が婚約者として石を連れてくる」というシュールな設定でした。彩の国さいたま芸術劇場でも別の作品(※さいたまネクスト・シアター最終公演『雨花のけもの』、2021年上演)を拝見しましたが、おもしろい設定で作品を書く人だな、と。幻想的な設定が現実とリンクしてくるんですよね。最近は東京芸術劇場や吉祥寺シアターでも上演していらして、伸び盛りだなと思っていました。
細川 ありがとうございます。
小笠原 かと思えば、せんがわ劇場のDELメンバーとしてコンクールの運営スタッフに関わってらっしゃったりもして(笑)
細川 裏方もやってたり。
小笠原 すごく贅沢。
生田 せんがわ劇場のそういうところ、すごく良いですよね。
――小笠原さんと生田さんは名取事務所の公演企画でご一緒されていますね。(※現代カナダ演劇上演 ニコラス・ビヨン2作品上演『慈善家-フィランスロピスト』『屠殺人 ブッチャー』、2023年上演)
小笠原 カナダの同じ劇作家の作品を2本立てで上演するという企画でした。
生田 私が演出した『屠殺人 ブッチャー』は初演を小笠原さんが過去に演出なさっていて、これが三回目の上演だったんです。
小笠原 それはそれで大変ですよね。でも見事に評価されて、賞を受賞なさって。
生田 私たち二人とも、いただいて。(※第31回読売演劇大賞優秀演出家賞を生田みゆき、小笠原響ともに受賞)
小笠原 同じ稽古場で、一日の前半、後半に分かれて稽古していました。
生田 三回のうちで私のものが一番コメディっぽくなったんじゃないかなと思います。
小笠原 そうですね。主役の女性が軽妙なタッチで演じてらして、ところが実は……、となっていく感じが、すごく良かったです。

Q 『ピギーバック』はどのような作品になりそうですか?
細川 とある町、とある国、日本でもない……、一体どこなのかは伏せられているけれど、ある町のなかで起こる……、えーと、あ、ちょっと待ってください(笑)
生田 どんな話なのか作者もわからない(笑)
細川 架空の町の町長がいて、その娘がいじめの疑惑をかけられるところからはじまります。自分が育てた子どもが誰かを傷つけている、そういうざわざわするようなところから、さらに、町長が持っている過去、町に関する秘密が複層的にからんでくる、そういうお話です。それらは物語上ではつながらないかもしれませんが、感触としてひとつにつながっていく瞬間があると思います。
僕が思う演劇のおもしろさって、わかりやすさだけではなく、身体にずっと残っていって、それがその人の思考をうながすようなものもあると思うんですね。そういう体験をしてもらえるんじゃないかと思います。他者とか自分が存在するこの社会でひとつの助けになったらいいなと思って、書きました。
生田 この物語を受け取ったときに感じることは人それぞれだと思いますが、色んなレイヤーで引っかかってくるものになる気がしています。テンポのいい言葉の応酬の面白さもあるし、「芯」のような深い部分で感じ取る人もいるでしょう。味わい方に関しては色々提供できそうな気がしています。「どういう話だったのかな」と語りたくなるような作品にしたいです。ロビーで話ができたりするといいですね。
細川 いいですね。
小笠原 『ピギーバック』というタイトルが興味を惹きますよね。
細川 「肩車」という意味ではあります。
小笠原 それと「いじめ」というキーワードがこのタイトルとどう絡んでいくのか、非常に興味深いですね。
――今回、DELメンバーと事前にワークショップをしたのち、一般公募の出演者オーディションをしました。すでに出演が決まっていた大森博史さんとワークショップに参加してくれた中村真季子さん、関彩葉さん以外は、オーディションで集まった俳優です。
生田 たくさん受けていただいて。
小笠原 100人以上でしょう……、すごいよね。
生田 応募書類のなかには「公共劇場がこのようなひらかれたオーディションをしてくれて嬉しい」と書いてくださっている方もいて、私も嬉しかったのですが、出演者の数は限られているので、本当に狭き門で。
細川 そうですよね。
生田 細川さんがオーディション用のテキストを書き下ろしてくださいまして、オーディションしながら、細川さんの作品をどう立ち上げようかなと考える機会でもありました。私がテキストから考えたものを俳優さんにぶつけた時に、俳優さんがどう返してくるのかなというのを見ていました。細川さんのテキストから生まれる演技のパターンが色々見られて、私自身もおもしろかったです。
――オーディションが稽古みたいになっていました。
(一同笑い)
細川 演出家がどういう言葉を使って、どういう要求をしてくるのかを俳優が知る場所にもなっていましたね。
――すでに舞台美術の打ち合わせが始まっています。今回の美術は杉山至さんです。
小笠原 杉山さんですか、うわあ、ホットな人ですね。(※このトーク収録の直前、第60回紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞)
生田 杉山さんから出てくるアイデアがすごくおもしろいです。まだどう実現していくかわかりませんが、表面に見えているものの下に隠されているものが視覚的に舞台であらわれてくるとおもしろいんじゃないか……、とか。
登場人物の名前が少し変だったり、架空の町という話の部分から、フィクションですよ、現実からちょっとずらしていますよという設定に対して、扱っている題材がすごく具体的で、観ている人は具体的なことを思い浮かべると思うんですよね。そのずれをどう演出として表していくか。それから、「絵」が大きいモチーフとしてあって、その存在感を全部使うのか、ずらしていくのか、舞台美術としてもいま考えているところです。
小笠原 せんがわ劇場がこんな風になるんだ、という新しい舞台空間を提示してもらえると嬉しいなと思います。

Q せんがわ劇場で上演することについて、特別な印象はありますか?
生田 せんがわ劇場がある安藤ストリートからコンクリートの意匠が続いていて、街と一体化してる空間だなと感じてます。地下にトントントンと降りて行ったら「あ、こんなところに劇場が」という空間もあると思いますが、ここは入口から自然と劇場ホールの中にいて、それが帰り道も続いている、そんな感覚がぐっときます。だから帰り道がたのしい。
細川 自分が知っている範囲ですが、都内にある他の劇場との違いとして、せんがわ劇場は地域に根差していて、地域性が強い印象がありました。演劇コンクールの受賞記念公演の『心白』という作品では劇中でジオラマの地図をつくっていくのですが、それを調布市に設定しました。仙川の駅前からつくっていくんです。作品のなかではウクライナのマウリポリの風景とオーバーラップさせたのですが、そういうことをしたくなる劇場ではあるなと思いました。関連付けたくなるというか。そういう力があると思います。
生田 一方で、せんがわ劇場(ホール)で大変なのは壁ですよ(笑)
――グレーで、横に線が入っている劇場の壁ですね。美術打ち合わせでもその話題があがりました。
生田 壁が主張してくるんです(笑)
細川 せめて黒であれば、みたいな(笑)
生田 まあ、ブラックボックスはどこにでもありますけど。
――小笠原さんはこれまでに二回、芸術監督公演を上演して、せんがわ劇場ホールの壁についてはどう思っていますか。
小笠原 主張の強い壁でも、お客さんがお芝居の世界にのめり込んでくれれば気にならなくなってくるってわかってきましたね。せんがわ劇場は客席のレイアウトが自在にできて、作品に合わせて演技空間をデザインできる。今は「この劇場を見て!」という感覚でやっています。

Q ずばり、演劇のおもしろさとは?
細川 近頃はSNSの動画で生成AIやフェイク動画などありますけど、まぎれもなく目の前に現実がある(演劇の)強さというのは最近になってやっぱりすごく感じますね。演劇って結局残っていくな、と思いました。
生田 学生の頃、初めて小劇場で観た演劇作品を今でもよく覚えています。特にクオリティが抜きん出ていたわけじゃないんでしょうけど……、それは細川さんの話に通じるんだろうなと思います。
あと、「一緒に観てる」というのが大事だなと思います。家で一人で観る気楽さとはちょっと違う、ひしめき合って集中して観ていて、周りの空気も感じ取りながら観るというのは特別なことだと思います。だから、こういう小さな劇場でこそ味わっていただきたいなと。
小笠原 一本の上演時間のなかで、上演している側と観ている側の意識が一つになる瞬間が生まれるんですよね。そんな特別な時間を体験できる場所が劇場であり、演劇であると思います。
――本日はありがとうございました。

臨場感たっぷり”超贅沢空間”のせんがわ劇場で、皆様のご来場をお待ちしております。
【『ピギーバック』のチケットの発売日はアートプラス会員:1月20日(火)、一般:1月23日(金)から】
客席数が少ないため、お早めにご予約ください。
↓せんがわディレクターズセレクション『ピギーバック』公演詳細は以下のリンクをクリックしてください
