
第16回せんがわ劇場演劇コンクール【講評/受賞者コメント】劇団fireworks



グランプリ・オーディエンス賞・俳優賞(池田僚、米沢春花)受賞
専門審査員講評
[専門審査員]
笠木 泉(劇作家・演出家・俳優)
佐藤 滋(俳優)
ひびの こづえ(コスチューム・アーティスト)
徳永 京子(演劇ジャーナリスト/演劇コンクール企画監修)
小笠原 響(演出家/せんがわ劇場芸術監督)

※掲載の文章は、第15回せんがわ劇場演劇コンクール表彰式の際の講評を採録・再構成したものです。
【笠木 泉】
長く演劇を続けていると、ときどき「出会い」を感じるときがあります。たまたま劇場へ行き、たまたま観た作品に心を動かされる。そういう幸福な出会いを積み重ねながら、ここまで演劇を続けてきたように思います。今回、劇団fireworksの作品を拝見して、また一つ「出会い」があったと感じました。本当に胸がいっぱいになりました。
率直に思ったのは、「演劇を続けてきてよかった」ということです。この小さな場所で、わずか40分という短い時間にもかかわらず、ここにいる人間の魂を救い、「明日も生きていこう」と思わせる力が演劇にはある。それを見せていただきました。そういう力のある作品だったと思いました。
登場人物の背景や職業など、戯曲には細かく書かれていることが、舞台ではあえて省略されている部分もありましたが、この舞台には、それらがなくても「すべてが存在している」と感じさせる魅力と求心力があったのだと思います。
そして、どうしても触れたいのが、舞台上のセットであるパーテーションの使い方です。最初は「これは要らないんじゃないかなあ」と思いましたが、使い方が実に見事だと思いました。演出の力だと思います。
【佐藤 滋】
戯曲を読んだときに、二人の掛け合い会話がとても心地よくて、「本当に舞台上で生身の俳優ができるのだろうか」とも思ったくらいです。上演が始まり、二人が最初のやり取りを交わした瞬間に、「できるんだ」と思わされて、その瞬間から私は二人のことが大好きになりました。
戯曲では説明されている友人の台詞が上演では聞こえないようになっていて、「この情報がなくて大丈夫だろうか」と勝手に余計な心配をしたのですが、進んでいくとそれは全く大丈夫でした。同じように洋子(米沢春花)が戦場で働いているという設定があるので、登場で軍服のような格好で示されるのかと思っていましたが、ごく普通の部屋着のような姿で登場したので、「これも大丈夫か」と思いましたが、これもやはり余計な心配でした。本当に失礼しました。
私はこの二人のことを心から好きになりました。途中から涙があふれて、今こうして思い返していても胸が熱くなります。ギター奏者の存在感もとても良かったです。
【ひびの こづえ】
台本を読んだときは、SF的な設定の中で戦争を扱った作品という印象で、正直なところ、最初はそれほど強く興味を惹かれませんでした。ところが上演が始まり、しばらく二人の会話を見ているうちに、役者の声や間の取り方にどんどん引き込まれていきました。本当にそこに幸せな家族が暮らしている風景が立ち上がってきたのです。
洋子の無邪気さ、クールで優しい圭介(池田僚)、一見すると、ごく平凡な夫婦なのですが、どこかに引っかかる違和感がある。何かが変。戯曲では説明されている部分が、観客には共有されていません。私自身も事前に読んだ内容を薄っすら忘れていたので、意味がわからないところがあり、その意味を知りたいという気持ちが、逆に作品へ引き込まれていく力になりました。
具体的な設定を理解していなくても、この一見平凡な日常の中に、じっとりとした怖いものが感じられる。また、音楽家の存在と、その奏でる音が、二人の俳優をやさしく包み込み、おかしな不思議さを際立たせていました。
私は二次審査のとき、「北海道で活動する劇団が、これだけの時間と労力をかけて東京で上演することに、どんな意味があるのだろう」と考えていました。でも彼らは、その距離さえも味方につけたのだと思いました。セットも登場人物も削ぎ落としたことで、俳優の声、セリフ、動きがより浮き上がって見えた気がします。
「舞台美術はもっと少なくてもいいのでは」とも思いましたが、そのわずかに残された要素が、かえって救いになっていたように思います。自然と涙がこぼれ、拍手を送りたくなる作品でした。観て、感じられて、幸せでした。
【徳永 京子】
何もかもがうまい。演技も、戯曲も、演出も、素晴らしかったです。
まず巧みだと思ったのは、セリフ中の方言のパーセンテージを徐々に減らしていかれましたよね。冒頭では方言が前面に出ていて、「なんだ?」と観客に少し距離を感じさせ、耳をすまさせてから、その割合を少しずつ減らしていき、気づけば自然と二人の世界へ引き込んでいくという、その導き方が本当にうまかったです。
小さなダイニングキッチンというごく限られた空間で、一組の夫婦がじゃれ合いながら暮らしている小さな世界の話に見えながらも、米澤さんの戯曲には俯瞰する広い視野があります。その外側に広がる社会や世界全体まで、しっかりと感じさせてくれました。しかも、「戦争」や「テロ」といった言葉を一切使わずにそれを伝えている。問題の中心にある大事なことを直接言葉にせず、それを確実に伝えていました。
宅配はドローンが担う時代なのに佐川急便だけはまだ人が運んでいるとか、そうした細かい設定がその後につながっていたり、また、洋子が何度も床に寝転がり、「疲れた、ここが気持ちいい」と言う何気ない仕草も、彼女が圭介に計画を悟られないようにするための振る舞いだったことが分かる。そうした日常的なしぐさと言葉だけで、たくさんの伏線を仕掛け、どれもが効果的で驚き通しでした。この作品に出会えたこと、本当に良かったと思っています。
【小笠原 響】
家庭のささやかな幸福な時間を主軸にしながらも、その外側にある世界――戦争や争い、殺戮の絶えない社会を見事に描き出していました。登場人物二人の会話のリアリティ、テンポある会話の裏側には戦場があり、死があるという世界観の裏付けが俳優のお二人の中にしっかりできていて、何気ないやり取りの中でその背後に「何かがある」と観客が感じ取ることができました。その緊張感を最後まで保ち続けた演技に、敬意を表します。
トイピアノとギターの組み合わせも非常に効果的でした。目には見えないはずの「風」が、本当にそこを吹いているように感じられました。良い演出だったと思います。
安楽死が褒賞として授与されるような恐ろしい社会の中で、それでも二人が守ろうとしているささやかな幸せに、深い感動を覚えました。
一点だけ気になったのは、ラストの照明です。最後、細い光のラインが現れましたが、私としては、風を感じている夫と、それを見つめる妻、その二人の姿だけで十分に作品は伝わっていたように思い、最後のライトチェンジはなくても成立したのではないかという印象を受けました。とはいえ、感動が会場を包む素晴らしい作品でした。

受賞者コメント 【グランプリ・オーディエンス賞】劇団fireworks『風が強く吹いている』
ーグランプリ受賞の感想をお聞かせください。
オーディエンス賞をいただいた瞬間、「またここに来てお芝居をしていいんだよ」と、一般審査員の皆様に言っていただけたような気がして胸がいっぱいになりました。さらに専門審査員の方々からも温かいお言葉をたくさんいただき、それだけで大満足していた中でのグランプリ受賞でしたので、本当に驚きました。身に余る光栄に、今でも夢の中にいるような心地です。
この作品は、座組の全員で話し合いと試行錯誤を重ね、全員で創り上げたという自負があります。私たちが積み重ねてきたこと、信じて進んできた道は間違っていなかったのだと、報われた気持ちでいっぱいです。
ー作品『風が強く吹いている』のこだわりを教えてください。
最初は4人芝居としてスタートしたのですが、稽古を重ねる中で要素を徹底的に削ぎ落とし、最終的な形へと行き着きました。情報をできる限り削ることで、お客様の想像力をお借りして初めて成立する作品を目指したのが一番のこだわりです。
仙川についてからも稽古を重ねることができゲネ終わりの稽古でやっと全てが腑におち、作品が完成しました。それは、仙川という地域で稽古できたということと、直前まで妥協せず粘り続けることのできた、このチームがあったからこそ辿り着けた瞬間だったと思っています。
また、東京にないものを持ち込みたいという想いから、あえて方言を取り入れました。 この引き算や挑戦は、私一人の演出ではなく、チーム全体で対話を重ねながら創作できたからこそ実現したものです。全員でじっくりと向き合えたからこそ、大胆な選択ができたのだと感じています。
ー印象に残った講評の言葉はありましたか?
「出会えて良かった劇団」「観て感じられて幸せでした」「2人のことを愛してしまった、涙が溢れてしまった」「見えないはずの風が見えてきた」と温かい言葉を沢山言っていただけたことが、私たちにとって何よりの大きな誇りとなりました。 皆様からいただいた温かい言葉の数々は、これからの私たちの活動を支える大きな糧となります。
講評自体がもらえる機会が少なく、一劇団に、40分の小さな作品に、こんなにも丁寧に言葉を紡いでくれるのかと感動しました。ありがとうございました。
ー来年の受賞者公演に向けての意気込みを教えてください。
グランプリ・オーディエンス賞と大変嬉しい賞をいただきましたが、ここからが本当のスタートだと思っています。今回のコンクールへの参加を機に出会えたたくさんの方々、そして変わらず一緒に作り続けてくれる同志とともに次の一歩へ踏み出していきたいと思います。その時の我々にしかできない、我々だからこそ生み出せる受賞者公演をお届けしたいと思っています。
またコンクールを通じて知ることができたせんがわという場所や関わっている人たちにもっと出会いたいという強い想いがあります。だからこそ、来年の受賞者公演は客席から見守るという形ではなく、ぜひ手を貸していただけたらとおもいます。皆様にまたお会いできるのを今からとても楽しみにしています!
ー調布市民のみなさんが劇場へ行きたくなるような呼びかけをお願いします。
美術館のような劇場に一歩足を踏み入れると、とても綺麗で光が差し込むエントランスが広がっています。そこでまずは、ふっと息をつくことができます。
そして場内へと進むと、外とは空気も匂いもガラリと変わり、そこには劇場空間が広がっています。 階段を上がり、どこからでもみやすい席に座っていると緞帳が開きお芝居が始ります。中に入った人にしかわからない特別な世界です。
そこでは、死んだはずの人間が話しかけてきたり、美しい音楽にのせて個人の生々しい感情が溢れ出したり、武士道を問うた人間が素振木刀を振っていたり、決して消えない戦争の硝煙が湯気と共に立ち上ったりします。劇場を出る時には、入る前と後で世界の印象がガラリと変わっているはずです。ぜひ一度、この世界を訪れてみてください。


受賞者コメント 【俳優賞】池田僚(劇団fireworks)
―コンクールに参加してみての全体の感想や印象はいかがでしたか。
今回、北海道外のコンクールに作品を持っていくこと、そして出場すること自体が、僕の役者人生において完全に初めての経験でした。これまで一度も立ったことのない劇場で、リハーサルの段階では想像以上のプレッシャーを感じ、ガチガチに緊張してしまっていたのが本音です。
しかし、現地のスタッフの皆様がもの凄く温かく、熱心に接してくださったお陰で少しずつリラックスすることができ、自分たちの作ってきた世界、そして本来の演技に集中して臨むことができるようになりました。
―俳優としてのこだわりを教えてください。
舞台に立つ上で一番大切にしているのは、ステージ上で対峙している相手役との対話です。今回、そのパートナーであったのが、妻役を演じられた米沢春花さんでした。過去に別公演で共演してきましたが、夫婦という関係性を演じるのは初めてでした。
稽古初期は絶妙な距離感に苦戦した時もありましたが、外部の講師の方をお招きした身体表現のワークショップ等をきっかけに、お互いの心の壁を打ち破れたきがします。夫婦という関係性の自然な空気感を、作り込んで本番に挑めたと感じています。
―俳優賞受賞の感想をお聞かせください。
正直なところ、自分が「俳優賞」という個人の賞に選ばれるなんて考えてもいませんでした。名前を呼ばれた瞬間は、嬉しさよりも驚きの感情が強かったです。個人賞を狙うというよりは、この作品が、この座組で作ってきた世界が、何かしらの形で認められてほしいという強い願いはありました。
だからこそ、個人賞だけでなく、お客様の投票による「オーディエンス賞」、 そして「グランプリ」と、トリプルで受賞させていただけたことは、本当に嬉しかったです。座組全員で積み上げてきたものが認められた気がして、本当に感無量でした。
―コンクールに出場してよかったこと、大変だったことを教えてください。
このコンクールを通じて一番よかったと感じているのは、自分たちが札幌で積み上げてきた演劇のスタイルが、東京で、そして新しい場所でもしっかりとお客様の心に響くんだという確信を持てたことです。
一方で、本番を迎えるまでは大変だったことの連続でもありました。東京のコンクールに地方劇団として乗り込むプレッシャーはとても大きく、飛行機の中や直前まで「本当に受け入れてもらえるだろうか」と不安な気持ちでいっぱいでした。もともと自分の演技に自信を持てないタイプだからこそ、このプレッシャーとの戦いは試練でした。
さらに技術面では、アコースティックギターの弾き語りや、ラップに挑戦したことも大きな壁でした。最初は途方に暮れていましたが、「上手く歌いすぎない粗削りさこそが、夫婦のリアルな感情として客席に伝わる」というアドバイスを信じ、不器用ながらも自分らしい表現としてステージで出し切ることができたかと考えています。
―今後の活動の抱負を教えてください。
今回、人生で初めてこのような素晴らしい個人賞をいただけたことは大きな栄誉ですが、同時に身の引き締まる思いでいっぱいです。この賞の重みに負けないよう、そして「せっかく俳優賞を獲ったのに、次の芝居はこんなもんか」と周りから落胆されることのないように、これまで以上に一つ一つの舞台に全力で取り組んでまいります。
また、ありがたいことに、来年には今回の受賞作品を再演することができるため、今ある評価に甘んじることなく、今回の東京公演で得た経験や、お客様からいただいたエネルギーをすべて作品に注ぎ込んで、より良い公演をお届けできたらと思います。本当にありがとうございました!
受賞者コメント 【俳優賞】米沢春花(劇団fireworks)
―コンクールに参加してみての全体の感想や印象はいかがでしたか。
右も左も、それこそ劇場の階段の場所さえもわからない私たちを、無事に終演まで導いてくださった運営スタッフの皆様には本当に頭が上がりません。思えば、事前のテクニカル打ち合わせの段階から、こちらのWi-Fiの調子が悪く通信が途切れ途切れになってしまうなど、ご迷惑をおかけしてばかりでした。最初から最後まで、本当にお世話になりっぱなしの温かいコンクールでした。
また、本選でご一緒した他劇団の皆様の作品がどれも素晴らしく、客席で観劇しながら(緊張と興奮のあまり)人生で初めて足がつるという経験をしました。 どの作品からも「これが、私たちです」という並々ならぬ覚悟と一本通った芯が感じられ、圧倒されると同時にたまらなく格好良かったです。改めて演劇という表現の幅の広さを知るとともに、あの濃厚な空間の中で自分たちも作品を発表できたことは、大きなプレッシャーを感じたと共に誇りにも感じました。
―俳優としてのこだわりを教えてください。
本番前に仲間に背中を強く叩いてもらうこと。目の前にいる相手役を何よりも大事にすること。そして、もし舞台上で困ったことが起きたら、とにかく大きな声を出すこと。この3つをずっと大切にしています。
また、今回は私にとって初めての2人芝居、そして初めての夫婦役という大きな挑戦でもありました。そのため、夫役を演じた池田くんとの対話をはじめ、ワークショップを行ったり、様々な方に相談したりしながら、二人の間にある夫婦の空気感を丁寧に作っていきました。
稽古場で何度もトライ&エラーを繰り返しながら、我々だからこその夫婦像を作り上げたという自負はあったものの、やはり実際に観客の皆様の目にどう映るかという不安や心配は尽きませんでした。だからこそ、終演後に皆様から本当の夫婦なんですか?と聞かれた時は、不安が喜びに変わり、心の中でガッツポーズをしました。
―俳優賞受賞の感想をお聞かせください。
先に夫役の池田君の名前が呼ばれ、共に苦難を乗り越えてきた仲間の快挙に胸が熱くなりました。選ばれたことに呆然とし、文字通り微動だにしない池田くんに祝福の言葉を贈っている最中に自分の名前が呼ばれたため、変な声が出るほど驚きました。
いまだに信じられない気持ちもありますが、あの劇中の夫婦を、審査員の皆様が丸ごと愛してくださった結果のダブル受賞なのだと思い、今では大変嬉しく、誇らしく思っております。
ーコンクールに出場してよかったこと、大変だったことを教えてください。
出場して最も良かったのは、審査員の方々から講評をいただき、また一般審査員の方々とアフターディスカッションができたことです。真剣に作品を見てくれた方々と会話や質問に答えながら自分一人では決して及ばなかったところまで、作品への思考を深く広げることができました。
大変だったのは、北海道からの遠征ということもあり、全員分の移動手段や宿泊地の手配を管理することでした。飛行機や宿がちゃんと取れているだろうか……、と本番直前までずっと不安だったのですが、そんな不安が吹き飛ぶくらい、コンクールの期間は楽しく充実した時間になりました。
仙川に訪れて2日目くらいにお祭りのイベントだからこんなに人が多いんじゃなくて、これが通常の人口密度なんだと気づいて衝撃を受けました。来年、初めて東京に、仙川にくる仲間には心構えとして先に伝えてあげようと思っています。
―今後の活動の抱負を教えてください。
これからも、自分たちが「面白い」と信じる作品を真っ直ぐに創り、届けていけたらと思います。
今回のコンクールで、私たちは要素を徹底的に削ぎ落とす「引き算の表現」に挑み、チーム全員の対話、そして観客の皆様の想像力と深く繋がることで、初めて演劇が完成する瞬間に立ち会いました。また、それぞれ全く異なる武器を持った強烈な他団体さんの作品を見ることができたのはとても大きな糧となりました。
遠く離れた北海道から始まった私たちの旅ですが、この「せんがわ」という特別な場所でいただいた『出会えて良かった』という言葉、そして温かい講評の数々は、これから何か壁にぶつかった時、大変な時にお守りとして大事に持っていきたいともいます。
私の好きな演劇は、作り手だけで完結するものではなく、客席にいる皆様とも手をつないで、初めて完成する演劇です。来年の受賞者公演、そしてその先へ向けて、皆様としっかりと手をつなげるように、さらに努力を重ねていきます。本当にありがとうございました。


