せんがわ劇場 芸術監督
就任二年目を迎えて
せんがわ劇場芸術監督 小笠原 響
常日頃より調布市せんがわ劇場をご愛顧いただき、誠に有難うございます。早いもので当劇場の芸術監督に就任し一年が経過しました。
「小さくても、溢れる才能と熱意を湛えた劇場」「小さいからこそ優れた作品を生み、成長を生み、活力を生み出す劇場」を目指して新たに歩みだしたせんがわ劇場。その第一歩として昨秋バーナード・ショー作『ドクターズジレンマ』を新翻訳で日本初上演し、100数年前に英国で上演された作品を現代に蘇らせました。客席のスタイルも一新し、実力派の俳優陣の演技を観客が間近に体感できる劇場空間を創り出したことにより、小さくても無限のポテンシャルを秘めたせんがわ劇場の魅力を力強く発信しました。観客の皆様からも温かい拍手を頂き、新たな船出を応援してくださった皆様に心より感謝いたします。幸いなことに有力紙の劇評欄や演劇雑誌においても高い評価が掲載され、せんがわ劇場への注目度も高まりを見せています。
就任二年目を迎えた4月、戦後の日本演劇を70年に亘ってけん引し続けた六本木俳優座劇場が閉館することとなりました。3500本以上の公演を打ち続けた劇場の最終公演『嵐 THE TEMPEST』に演出家として参加した私は、改めて劇場とは何か、その意味を考えずにはいられませんでした。千秋楽のカーテンコールではスタンディングで称賛を贈る観客、感涙の涙に咽ぶ俳優たち…。大量の紙吹雪が舞い、そこには共感の渦が巻き起こっていました。劇場に対する、演劇に対する感謝と愛で満たされた瞬間でした。
せんがわ劇場はキャパ121席の小さな劇場です。調布市仙川の地に産声を上げて今年18歳になります。大人の世界に足を踏み入れたばかりで未知数も多いが、若くて意欲に満ちた年齢です。臆することなく大胆に、新たなことにチャレンジしていけるタイミングです。
本年度の事業のラインナップでは、せんがわ劇場演劇コンクールを通じて集まった若き才能集団で、劇場が仙川地域で展開する演劇ワークショップ事業を先導してきたDEL(デル)のメンバーが、劇場主催の公演事業にも数多く参画していきます。彼らの若く柔軟な発想・意欲に満ちた情熱と芸術監督が外部から呼び込む成熟した才能とが出会い、刺激的な創作空間を生み出します。皆様に愛され続ける劇場でありたい…身に染みて感じる昨今です。
今年度もぜひ、せんがわ劇場にご来場いただき、青年から大人への過渡期に入ったせんがわ劇場の新たな挑戦を見届けて頂けましたら幸いです。

小笠原 響 Ogasawara Kyo
劇団俳優座、文学座、木山事務所、「子供のためのシェイクスピア」などで舞台監督・演出助手として多くの演出家と現場を共にし、演出の研鑽を積む。その後フリーの演出家として数多くの舞台公演を演出。2018年、読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。その後日本芸術文化振興会演劇分野プログラムオフィサーを務めた経験から、近年は劇場を拠点とした演劇事業にも関わり、地域の演劇振興に貢献。2024年、再度読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。 主な演出作品 『慈善家-フィランスロピスト』『屠殺人ブッチャー』『ベルリンの東』(名取事務所)、『善人たち』(劇団民藝)、『ジン・ゲーム』(加藤健一事務所)、『聖なる炎』(俳優座劇場プロデュース)、『正義の人びと』(劇団俳優座)、『The Weir-堰-』(劇団昴)、『拝啓、衆議院議長様』(P カンパニー)、千葉市民創作ミュージカル『千年天女』ほか。 |
令和6年度就任時の特設ページは以下よりご覧いただけます。